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歌舞伎町に見るルッキズムのリアル 「整形は努力、ブスは...」の言葉が示すもの

2025年05月19日 公開

佐々木チワワ(ライター)

佐々木チワワ

ホストクラブに頻繁に通い、多額の金銭を投じる「ホス狂い」といわれる女性たちの実態とは?高校生の頃から歌舞伎町に足を運び、トー横キッズやホストなどの現場を取材してきたライターの佐々木チワワ氏は、著書『歌舞伎町に沼る若者たち』にて、歌舞伎町やホストクラブに通う女性のリアルを社会学的に分析し、その諸問題の解決策までを提言している。

佐々木氏は同書の中で、夜職業界を筆頭に加速するルッキズムについても言及している。その一部を紹介する。

※本稿は、佐々木チワワ著『歌舞伎町に沼る若者たち』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです

 

加速するルッキズム

自分のすべてを資本化する動きと消費によるアイデンティティの形成について述べてきたが、そうした現代的な価値観の土台として、ルッキズムの加速があると筆者は考えている。

ルッキズムとは、「外見に基づく偏見や差別」のことである。ルッキズムは「視る/視られる」という社会関係において生まれる現象であり、上野千鶴子は『発情装置 エロスのシナリオ』(筑摩書房、1998年)のなかで、女性が男性の視線によって性的欲望の対象として評価され、比較され、値踏みされる「視られる身体」であることを早いうちから自覚させられると論じた。この「視られる身体」としてまなざされる視線が、現在は男女ともに降り注いでいる。

筆者が女子高生だった10年前と比べても、ルッキズムはとりわけ若者を中心に浸透し、ジワジワと息苦しさが広がっているのではないか。

女子高生ミスコン2024の公式TikTokでは、ミスコンのファイナリストの女子高生たちが「整形したい?」という質問に次々と答えていく動画を投稿。「脂肪吸引したい」「エラを削るのと鼻を小さくしたい」「骨切りたい」「顔全体を変形させたい」と答える女子高生たち。「しません」と答えた子に対しては、撮影者が「えらい!」と発言する場面もあった。

この動画は2025年1月現在、公式からは削除されている。女子高生が整形の単語を覚えており、動画の質問に平然と答えられていることから、若い世代でも身体の改造に対して当たり前に知識をもっていることがうかがえる。

2024年10月7日には、スキンケアやボディケア商品を扱うブランド「Dove」が「#カワイイに正解なんてない」と題し、10月11日の国際女性デーに合わせて広告を展開した。Doveが16〜19歳の女性に容姿や体型に関するアンケートを取ったところ、82.3%が何かしらのきっかけで自分の容姿や体型に自信がなくなった経験があると回答し、そのうち半数以上がSNSを見ているときに自信をなくすことがあったという。

そんな女性たちの「美」に対する意識を変え、自己肯定感を上げてほしいと打ち出した広告。「カワイイ」とされる基準の言葉を並べ、その言葉を消すような広告には、次のような言葉が並んでいた。

「中顔面6.5cm」(中顔面=目の下から唇までの長さ。小顔かどうかを判断する基準)
「人中短い」(人中=鼻と上唇の間にある溝の部分。溝の長さがカワイイかどうかに影響すると言われる)
「スペ110」(スペ〈スペック値〉=身長−体重の数値。痩やせているかどうかの基準とされる)

こうした10個のカワイイの基準を並べた広告を渋谷に計64枚貼り出した。ルッキズムを否定し、数字に縛られたカワイイの基準を打破する意図があったコピーだが、結果的に「むしろルッキズムを助長している」と炎上。批判のなかには「広告のせいで美の基準を植え付けられた」という声もあった。

筆者も以前、ホストから「中顔面短いね」と言われたことがある。言葉の意味を知っていれば嬉しいであろう褒め言葉だが、そのときは知らなかったためネットで検索をかけてしまい、結果的に顔面の黄金比率を知ることになり、自分の顔の「数字」と向き合うことになった。

Doveの広告コピーの大半は整形用語である。なかでも「スペ110」はもともと夜職界隈発祥の言葉と言われており、スカウトが女性を夜の店に紹介する際、写真でしか判断がつかないときに女性を商品として説明するために用い始めた基準だ。

この言葉がSNSによって普及し、大手企業である「Dove」が若者向けの広告として採用した事実こそ、歌舞伎町の規範がSNSを通じて社会に流れ出ている裏付けになっている。

 

外見が「能力」と見なされる時代

では、近年はなぜこうもルッキズムが加速しているのか。

第一に、身体加工のハードルが極端に下がったことが挙げられるだろう。社会学者である谷本奈穂の『美容整形と化粧の社会学』(新曜社、2008年)では、スーザン・ボルドーが提唱した「変えることのできる身体=プラスティックボディ」の考えをはじめ、消費文化によって身体は思いどおりに形作られるものとして捉えられるようになった過程を論じている。

「身体加工」はダイエットなどのボディメイクから脱毛、化粧も一時的な身体加工と言える。近年では、写真を「盛る」フィルターも身体加工の一種だろう。こうした身体加工が一般化していくなかで、自分磨きや垢抜けの一種として整形という手段も一般化し、「整形は努力、ブスは努力不足」といった風潮が広がっている。

本来高額な手段であるはずの整形も「垢抜け」と一括りにされ、身体加工を助長しているのだ。こうした流れは美容資本への投資を過剰に正当化し、ルッキズムを加速させている。

このようなルッキズムの最前線を走っているのが歌舞伎町を中心とする夜職業界だ。夜の業界の身体加工は「好きな服を着る」「痩せて自分に自信をもつ」といったレベルではなく、基本的には「より高値で売れる商品になる」ための加工である。自らを「モノ」として捉え、市場でよりウケるように身体加工をするのが当たり前の世界だ。

筆者は、夜の業界の価値観が一般社会に急速に広がっている現状に危惧を抱く。商品として己を加工し販売するということは当然、性的にまなざされ、消費される存在であることを忘れてはならない。美の基準がわかりやすい単語や数字で定義づけられることで、「その枠にハマろう」と安易に整形を考える人が増えているのではないか。彼女たちは、「自分らしさ」という曖昧で不安定なものよりも、世間で数値化されている明確な枠にハマろうとしているのだ。

ルッキズムについて研究している西倉実季は、「外見が『能力』となる社会」と題する論考(『現代思想』2019年9月号、青土社)のなかで、労働でも外見が「能力」として商品化されている点について指摘している。

同論考では、接客サービス労働を中心的な事例として、労働において外見が求められる倫理的問題について論じているが、より良い外見を「商品」として売る接客業については言及されていない。接客サービス労働におけるルッキズムの問題を検討するうえで、夜職は今後の重要な分析対象にもなるはずだ。

夜職では、キャバクラ嬢やラウンジ嬢なら時給、ホストなら移籍金や日給、風俗嬢・セラピストなら単価という形で明確にランク分けされ、値段がつけられる。その背景にあるのは、顔や身長、スタイルといった容姿すべてが「能力」であり、加工可能なモノとして見る価値観である。

歌舞伎町の代表的なホストグループ「エアーグループ」のキャッチコピーは「職業、イケメン。」だ。グループとしては看板のコピーに偽りがないよう、ホストという商品を最大限選別するのである。

こうした外見を「能力」としたうえで明確な序列がつけられるのが夜の業界であり、そうした「規範」があることで、働く者は自分の外見の価値を知り、さらに高めるために奮闘するのである。

 

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