写真:吉田和本
安倍政権「最後の課題」ともいえる憲法改正は今後も重要な論点である。では、自衛隊明記と国防軍の保持は何が違うのか。日本の基本的防衛戦略である「専守防衛」は維持すべきなのか。前統合幕僚長の河野克俊氏と同志社大学教授の村田晃嗣氏が、日本の外交・安全保障戦略について徹底討論。
※本稿は『Voice』(2019年12月号)河野克俊氏&村田晃嗣氏の「『専守防衛』を再考せよ」より一部抜粋、編集したものです。
【河野】 日本の自衛隊と普通の軍隊の違いは、前者がポジティブ・リスト(行使可能なものを列挙し、それ以外は原則禁止とする考え方)で、後者がネガティブ・リスト(原則として規制がないなかで、例外として禁止するものを規定した考え方)だといわれています。
海上自衛隊は海上保安庁からの派生組織であり、陸上自衛隊は警察予備隊の系譜にあります。警察は権力を行使する相手が国民であるため、法律で縛る必要がある。
その警察を源流にもつ自衛隊の活動は、「やっていいこと」を列記するポジティブ・リストの法体系です。それに対して普通の軍隊は、いかなる手段をとろうとも国民と国家を守ることが使命です。
ただし国際法は守らなければならないため、「これだけはやってはいけない」というネガティブ・リストで構成されている。日本と諸外国では根本的な法体系が異なるのです。
安倍総理が主張している憲法9条への自衛隊明記案に私は賛成ですが、憲法に自衛隊を明記してもポジティブ・リストの法体系は変わりません。
大本を変えるには、憲法に国防軍を規定して自衛隊法を廃止し、国防軍法をつくってネガティブ・リストに変更しなければいけない。
そこまで進展するかはわかりませんが、まず一歩でも二歩でも前進するために、憲法9条に自衛隊を明記し、違憲論に終止符を打ったほうがよいと考えています。
【村田】 憲法9条に関しては、私も基本的に改正を支持しています。たとえば憲法制定当時に、サイバー防衛の概念は存在しませんでした。
現代のサイバー空間で個別的自衛権と集団的自衛権を線引きするのはほとんど困難です。このように、憲法には時代にそぐわない条項が少なくありません。
ただ国内の状況は、60年安保改定のときと似ている気がします。当時は、不平等な旧・安保条約を岸総理が改定したものの、結果として国民の憲法改正に対するモチベーションが下がってしまった。
本来は憲法を改正して軍隊をもち、より対等な安保条約につくり直すべきだったのに、「安保条約が改定できたのだから、わざわざ憲法を改正する必要はないではないか」という雰囲気が醸成されてしまった節がある。
2015年の安保法制成立時も、60年安保改定のときの状況と類似しています。限定的とはいえ集団的自衛権の行使が認められたため、改憲の機運が低下したように思います。
もとより、その後のトランプ政権の誕生に鑑みれば、この法制はやはりやっておくべきものでした。
更新:11月22日 00:05