2025年01月28日 公開

犯した罪を償って刑務所から出所するとき、寄る辺ない人間は少なくない。そんな彼ら彼女らの帰住先として全国に設けられているのが「更生保護施設」だが、2011年からは、さまざまな法人が管理する施設の空室を活用した施設「自立準備ホーム」で指導を受けながら生活することも可能になった。
千葉龍一さんは、そんな自立準備ホームを首都圏で数カ所展開する「株式会社生き直し」の代表取締役を務める。出所者支援が直面している現状について伺った。
※本稿は、『Voice』2024年2月号より抜粋・編集した内容をお届けします。
――千葉さんが出所者の支援に携わるようになった経緯を教えてください。
【千葉】私は以前に公益社団法人日本駆け込み寺で働いていました。その背景には、大学一年生の春休みに自分の運転する車で事故を起こし、助手席に乗っていた高校野球部時代からの友人の命を奪った出来事があります。悔やんでも悔やみきれない事故で、執行猶予がついて刑務所には入りませんでしたが、自責の念から実家に引きこもる日々を送りました。
そんなあるとき、野球部の仲間たちがわざわざ会いに来てくれて、「お前のしたことは許せない。でも、これまでどおり明るく生きていてほしい」と言われて、すごく救われたんです。それからはこんな自分にできることは何かを考え、弁護士をめざした時期を経て「日本駆け込み寺」の門を叩きました。
「日本駆け込み寺」では、出所者が働く居酒屋をつくるプロジェクトなどに参加しました。しかし、そもそも出所者には家がない場合が少なくなく、職場を用意するだけでは支援としては不十分。そこで駆け込み寺でも自立準備ホームを起ち上げたのですが、5年ほどで閉鎖することになりました。でも私は「もったいない」と感じて、自分の手で出所者を支援すべく「生き直し」を設立したのです。
――そもそも、自立準備ホームとはどのように運営されている施設なのでしょうか。
【千葉】運用を委託されている法務省から、出所者一人あたり数千円程度、食費を含めて支払われています。誰がうちのホームに入るかは、出所者の帰住先などを手配や管轄する保護観察所から私のもとに直接、電話がかかってきて、相談しながら決定しています。
――相性などの問題もありますから、誰でも受け入れられるというわけではないように思えますが、面接などはされているのでしょうか。
【千葉】いえ、私の場合は面接していません。特別な懸念事項がないかぎり、東京保護観察所でお会いした全員に「じゃあ、一緒に帰りましょうか」と声をかけています。
――受け入れた出所者には、家の提供以外にどのような支援をしているのでしょうか。
【千葉】たとえば、各種の手続きのサポートです。5年ほど服役すると、そのあいだに住民票が抹消されてしまいますから、その復活や以前の居住地からの転籍の申請を手伝います。また、病気を抱えている出所者ならば生活保護受給の手続きもサポートしていますね。
それ以外では、就職しても仕事がうまくいかないと悩む出所者の相談に乗ったり、お金の管理・監督をしたりするなど、「自立」の手助けになるならば何でもしています。それは施設を出たあとも同様で、電話で近況を聞いたりトラブルがあれば助けたりしています。
――日本国内の更生保護施設や自立準備ホームの数は足りているのでしょうか。
【千葉】現在、更生保護施設は全国で102施設、自立準備ホームは500事業所以上あって、じつはキャパシティとしては足りています。でも現実には、空き室がある施設はあるのに行き場のない出所者がいる。しっかり運営されていない事業所があったり、自立準備ホームの存在が出所者に知られていなかったりするためです。
また、出所者はこれまで、行政に助けてもらってこなかった人が少なくないので、支援を受けることに対して消極的なケースも見受けられます。これらの理由で行き場がなく、生活が困窮して、結果としてふたたび罪を犯すケースがあるわけです。一つずつ課題を解決しなければいけないと考えています。
――「生き直し」はこれまで94名もの出所者が利用されたとのことですが、現時点ではどのような手応えを感じているでしょうか。
【千葉】ある利用者に「ここ最近で一番長く『娑婆』にいます」と言われたときは、「自分がやっていることは間違いではないのかな」と感じました。彼は高校生のときにいじめられて引きこもり、その後、両親が失踪したことでホームレスになりました。そうして犯罪に手を染めるようになり、刑務所を出たり入ったりの状況が続いたときに、私のホームに来たのです。
彼と一緒に時間を過ごしているうちに、脳に障害があるのではないか、と感じました。病院に行くことを勧めても最初は拒否されたのですが、その後、警察に保護されることがあり、その機会に検査をしてもらったところ統合失調症だとわかったのです。治療を通して、だいぶ普通の状態で暮らしていけるようになってきています。今後も捕まらない保証はありませんが、少しでも長く罪を犯さずにいてくれたら嬉しいですね。
――障害を抱えているケースでは、やはり支援で意識されるポイントが変わるのでしょうか。
【千葉】とくに難しいと感じるのが、いまお話ししたような一見普通そうに見えて、本人も自覚していない場合です。それは致し方ないことで、これまで病院で治療を受けずとも、生きてこられたわけですから。でも、もしも障害があるのであれば、本人および周囲が気づけば、罪を犯さなかったかもしれない。依存症にも同じようなことが言えますね。
そうした方を支援するうえでは、専門的な知識などが必要なケースもあり、ときには僕のホームでは支援しきれないこともあります。できるならばだれも諦めたくないのですが、それが叶わないのはとても歯がゆいし、理解してあげられなかった僕のことを恨む人だっているかもしれない。いずれにせよ、社会全体として障害や依存症の方への理解が進んでほしいと願っています。
――出所者の支援について、もしかしたら「家族が面倒を見るべき」と考える方もいるかもしれません。そうした声についてはどう思いますか。
【千葉】むしろ、家族であれば支援できないと思いますよ。だから、僕たちのような第三者が、罪を犯した人たちには必要なのです。たとえば、身内の方が性犯罪に手を染めてしまったら、どう思いますか?
――許せないと思います。
【千葉】それが普通の感情だと思います。むしろ、これまで愛して信頼していた家族だからこそ、許すことができないのが人間の心情でしょう。
僕自身、冒頭で申し上げたように加害者になった経験がありますが、じつは父がギャンブル依存症で、母の入院費を勝手に引き出して使ったこともありました。僕は絶対に許せず、そのまま父は他界しましたが、もしも他者を傷つけたり殺めたりしていたらその何倍ものショックを受けて怒ったでしょう。
でも、罪を犯したのが他者であれば、少なくとも「やり直したい」という相手の言葉を引き受けることはできると思うんです。何を考えているのか、できるだけ相手の話に耳を傾けて、ふたたび罪を犯さないように手助けできるかもしれない。そう考えながら、いまも加害者の支援をやらせていただいています。
――「やらせてもらっている」という感覚なのですね。
【千葉】彼ら彼女らを支援することで、じつはいちばん救われているのは過去に友人の命を奪ったり、父を許せなかったりしてきた僕自身なのかもしれません。
日本の場合、たとえば人を二人殺めないかぎりは絶対に刑務所から出てきます。そうして出所した加害者を誰も支援せず、結果としてまた罪を犯したと聞けば、被害者あるいはその遺族は耐えきれないでしょう。
でも現実には、犯罪を繰り返す人間がいるわけです。最低限の環境を整えることで、その負の循環を止めることができるならば、僕の仕事にも意味があるのだと思います。
【千葉龍一(ちば・りゅういち)】
1982年生まれ。獨協大学法科大学院卒。大学時代に交通事故を起こし、助手席にいた友人を亡くした。「生きることは許されない」と思うようになったが仲間に助けられ、自分の命は誰かのためにあるべきだと決意。2013年より「日本駆け込み寺」で刑務所出所者等の支援に携わる。18年株式会社生き直しを立ち上げる。
更新:01月29日 00:05