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北朝鮮が「変則軌道ミサイル」の開発を続ける真の理由

2023年10月12日 公開
2024年12月16日 更新

高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)

北朝鮮

ニュース速報で流れる「北朝鮮による弾道ミサイル発射」の報にもあまり驚かなくなった昨今ですが、台湾有事と並んで東アジアの安全保障上のリスクに数えられる「朝鮮半島有事」の可能性について詳しく掘り下げていきましょう。

※本稿は、高橋杉雄著『日本人が知っておくべき自衛隊と国防のこと』(辰巳出版)を一部抜粋・編集したものです。

 

朝鮮半島有事における核リスク

今の北朝鮮の核戦略は、以下のような4段階の核戦力を整備しようとしているのではないかと推論できます。

①抑止力としてのアメリカ本土攻撃能力
②在日米軍を攻撃するための対日攻撃能力
③在韓米軍を攻撃する能力
④韓国軍を攻撃する能力

その上で、彼らのゲームプランとしては、韓国側が北に攻め上がってくるシナリオと、北朝鮮側が南に攻めていくシナリオが考えられます。

米韓同盟側に自分たちから北に攻めていくシナリオは基本的にありませんが、北朝鮮は北進シナリオを警戒しているかもしれません。では、半島有事が本当に起こるのかと言えば、金正恩次第としか言えず、正直わかりません。

はっきり言えるのは、米韓から起こすことはないということ。台湾海峡有事を台湾から起こすことはないのと同じと思えば、想像がつくでしょうか。もし米韓から行動を起こすのなら、1993~94年の朝鮮半島核危機か2017年の核危機の時点ですでに攻撃をしているはずです。

しかし、先制攻撃をしてもその後にソウルが火の海になるという前提は変わっていませんから、米韓から攻撃をすることはまず考えられないのです。ですから半島有事が起こるとすれば、北が攻撃をしてくる場合に限定されると思っていいでしょう。

 

半島有事で日本はどのような判断を下す?

繰り返しになりますが、北朝鮮は行動を起こす前に4段階の核兵器開発を終わらせておく必要があります。

日本との関係では、地理的に日本列島と朝鮮半島を分断する必要があって、そのために日本政府を核兵器で脅して米韓同盟に協力させないようにするというのが大きなポイントになります。そこで在日米軍と日本の都市を攻撃できる能力を持って、日本政府を脅かすシナリオが考えられます。

なお、在韓米軍は、ブッシュ政権のときに再配置を行いました。2000年代までは38度線の最前線に米軍が駐留していたのですが、ブッシュ政権と盧武鉉政権のときに再配置を合意し、今は米軍は最前線にいない状態です。

在韓米軍はソウルの南にある平沢()市にキャンプハンフリーズという海外最大級の米軍基地を造り、そこに駐留しています。これは、北朝鮮の砲兵の射程外に米軍が下がったかたちです。

北朝鮮から見れば、米軍が手の届かないところに行ってしまったのです。ですから北朝鮮は、短射程の変則軌道ミサイルの試験を2019年頃に行っていました。

下がった米軍に対する攻撃能力を高めるためです。400キロくらいの射程の試験が多かったのですが、400キロはキャンプハンフリーズから北朝鮮全土くらいの距離ですから、これくらいの射程があれば北朝鮮のどこからでもキャンプハンフリーズを攻撃できることになります。

対するキャンプハンフリーズはTHAADというミサイルで守られており、そのTHAADを突破するための武器として変則軌道ミサイルを開発しているわけです。

北朝鮮の南進シナリオでは、少なくとも日本列島と朝鮮半島を切り離すための日本に対する脅しは行われるでしょう。残念ながらこれも、日本側には選ぶ権利はほとんどありません。

北朝鮮が日本に対して米韓同盟の支援をするなと要求してきたときにどう対処するのか、つまり東京を犠牲にしてソウルを救うという判断をするかどうか、ひいては日米同盟と核攻撃を受けるリスクをどう天秤にかけるかという話であり、簡単に答えが見つかる問題ではありません。

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