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右派と左派の対立激化...本当に品位があるのは誰なのか?

2022年09月07日 公開

和田秀樹(精神科医)

 

ウヨク老人もサヨク老人も柔軟さが大事

問題なのは、いったん右になると右の意見、左になると左の意見しか聞かなくなることです。せっかく長く生きてきたのに、知恵がうまく働いていないように感じます。これが絶対に正義だとか、あるいは絶対に悪だといえるものは、世の中にはそうそうありません。

「脱原発すべきだけど、電力が不足すると困るから、事故を起こさないかぎりは原子力発電を容認する」と言う人や、「右を自認しているけど、日本人が貧しさや飢えに苦しむのは許せないので、福祉だけはしっかりやってもらわなければいけない」と言う人がいてもいいと思います。

いまの日本では、かなり左の立場であっても、天皇陛下を追い出せとか、共産主義革命を起こそうと考えている人は、過激派を除けばまずいません。日本共産党でさえ「憲法を守れ」と言っているのですから、象徴天皇制を否定していないことになります。

一方で、人工妊娠中絶を行っているクリニックが、保守派の団体に襲撃されるといった事件がめずらしくないアメリカなどとくらべれば、極端な考えをもつ右の人もずっと少ないといえます。

つまり、右と左の距離はそれほど大きくないのに、双方がほとんど歩み寄ろうとしないのがいまの日本の状況です。そこで右の人と左の人、どちらに対しても、「そうは言うけど」と言えるのが、酸いも甘いも嚙み分けた高齢者です。

たとえば、中国が嫌いで「あんな国とはつきあうべきではない」と言っている人に対して、「そうは言うけど、資本主義の世の中ではお客さんは神様なのだから、多少は頭を下げるのが商売人の基本のように思うけど」と言う。

あるいは、原子力発電は許せないから、環境のために太陽光など、再生可能エネルギーをどんどん増やせと主張している人に、「そうは言うけど、太陽光パネルの廃棄の際に、相当な環境破壊が起こるし、水力発電の水位を上げすぎると水害も起こりやすくなるというデメリットもあるよ」と言う。

私が高齢者に期待したいのは、そんなふうに右と左のあいだの「適度な落としどころを見つける」とか「ある方向の議論がいきすぎないためのお目付役」のような役目となることです。高齢者が見つける"落としどころ"は、聞く人にとって納得感があるからです。

同じことでも、高齢者に言われると、「人生経験のある人が言うなら、そうなんだな」と、ストンと納得できるところがあります。人生経験が豊富で、思考の幅が広い人がすてきな高齢者だ、と私は思います。

歳をとっても自分の主義主張がブレないというのは、それはそれで結構なことだと思いますが、ブレないことにこだわりすぎると、ほかの意見が受け入れられなくなったり、自分自身の思考の自由を奪うことになったりします。

自分の信念があって、結果的にブレないのならいいのですが、ブレないことが先にあって、そこに信念を後づけするのはおかしいと思います。

私たちの世代が学生だったころから、学生運動は衰退していきました。でも、その後も新左翼活動家が跋扈するなか、そういう若者に対して、高齢者が「君たちは青いな」と言っていたのです。

長年、現実を見てきている人たちが、「そう理想どおりにいくものじゃないよ」と、若輩者に達観した視線を向けていました。

それがいまでは、むしろ逆になっているように見えます。サヨク高齢者やウヨク高齢者に対して、若い世代が「年寄りは頑固だな」と冷めた視線を向けているのです。

それはさすがに格好悪いという気がします。歳をとるにつれて、サヨク高齢者とウヨク高齢者に分かれていきがちですが、品位があるのは、左と右のどちらであっても、それなりの柔軟さをもつ「柔軟高齢者」ではないでしょうか。

 

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