2022年05月18日 公開
ここで、日本社会における「出会い」における戦後の変化を簡単にまとめると、「自然な出会い」の普及と衰退ということができる。「自然な出会い」が衰退するとともに、未婚率の上昇や男女交際の減少が起きたのである。
日本では、高度経済成長期に「自然な出会い」による結婚が急速に普及する。多くの学校が共学化した。企業も一般職で大量の未婚女性を採用し、企業福祉の一環として社員旅行やサークル活動が奨励され、労働組合青年部も活発に活動していた。
地域では農協や商工会の青年部、そして青年団の活動が活発で、自営業や、農家の息子、娘が参加していた。未婚の男女が同じ場所で一緒に勉強や仕事、活動などを行なえば、そこで好きになる人が出てくる。
当時は「結婚退職」が一般的だったため、結婚した女性は活動から離れ、新たな未婚女性が加入してくる状況があった。兄妹の数も多かったので、兄妹の友達(多くは女性から見て兄の友達)との結婚も多かった。
また、いまの上皇陛下のご成婚時(1959年)も「テニスコートの恋」ということで、「自然な出会い」によって結婚する風潮が後押しされ、日本における恋愛結婚の主流となる。
1960年代半ばには、恋愛で結婚した夫婦が見合いで結婚した夫婦を上回り、職場結婚の時代が来る。
日本には、欧米のようにカップルで行動するのが当然という「デート文化」がない。また、多くの日本男性は基本的にシャイであるため、相手と親しくなるには時間がかかる。
当時の若者たちには、徐々に親しくなる時間的余裕があった。男女とも正社員や地域活動のメンバーであったからである。そして「自然な出会い」に乗り遅れた男女は見合いが設定され、ある程度の年齢までにほとんどが結婚していった。
それが可能だった背景には、1980年代頃まで、若年男性の収入が安定していたことがある。当時の女性にとって、誰と結婚しても、将来の経済生活を心配する必要はなかった。
ところが1990年ごろから、職場での「自然な出会い」は減少する。理由の一つには、正社員の長時間労働(若年正社員労働時間増大)と非正規雇用の増大がある。
非正規社員は入れ替わりが激しく、正社員との交流が少ない。とくに派遣やアルバイトなどの非正規社員には、未婚女性が多く就く。
コスト削減のために社内サークルや社員旅行を廃止する企業が増え、地方では青年団など全員加入の若者組織が衰退に見舞われた。
また、収入が不安定で女性から結婚相手とみなされづらい男性が増えた。そうした要因が重なり、相対的にシャイな若者が出会ってゆっくり親しくなる機会が徐々に減少していったのである。
その結果、未婚化が進行する。1970年には、30代前半の未婚率は男性11.7%、女性はわずか7.2%と、男女ともに30歳くらいまでにはほとんどが結婚していた。
それが2020年には、男性51.8%、女性38.5%(国勢調査、計算方法が変わったので単純に比較はできない)にまで上昇する。
そして出生動向基本調査でも、2005年以降、恋人をもつ未婚の若者の割合が急速に低下する。2015年では、交際相手(友人も含む)をもつ18~34歳の若者は、男性27.2%、女性37.9%まで落ち込んだ。
私が「婚活」という言葉をつくったきっかけは、2007年、雑誌『AERA』で白河桃子氏に取材を受けたことだった。
「結婚をめざしてさまざまな活動をしている未婚女子」が増大している現象を説明するために、結婚活動、略して「婚活」と名付けたのだ。
翌年には白河氏との共著『「婚活」時代』(ディスカヴァー携書)を出版し、「自然な出会い」が衰退するなか、積極的に活動しないと結婚相手に巡り会えない確率が増大したことを述べた。
では、「積極的な出会い」のなかで、マッチングアプリにはどのような特徴があるのか。
一つ目は、コスパとリスクの相反だ。すなわち、手軽に多くの人と出会うことができる一方で、問題がある人と出会う可能性も高いということである。
友人などに紹介を頼んでも、その友人に適切な知り合いがいるとは限らない。いわゆる合コンも然りである。結婚情報サービス業はさまざまな人を紹介してもらえるが、手続きが面倒で料金もかかる。ただその分、問題がある人と出会う可能性は低くなる。
一方でマッチングアプリは、料金は無料もしくは安く、多くの人に出会える。プロフィールが事前にわかるため自分に合った人を見つけられる可能性が高く、コスパは良い。
しかしその分、リスクは高い(職業や収入、年齢の詐称などウソのデータの提示、サクラの存在、結婚目的でない人や既婚者の参加、婚活詐欺などを排除できない)。
『新婚さんいらっしゃい!』でも、マッチングアプリ上で男性側が職業を医師だとウソをつき交際を始め、結婚寸前で本当のことを話したケースもあった(女性が許したから番組に出ているのだが)。羽渕一代・弘前大教授の分析でも、マッチングアプリを利用する学生は少数で、性的リスクをとれる人であるとしている(羽渕「出会い文化の変遷」林雄亮他編『若者の性の現在地』勁草書房)。
そこでマッチングアプリの運営会社でも、いわゆる「出会い系」との差異化を図るため、さまざまな工夫を凝らしている。公的なアプリでは、独身証明を要求するものもある。ただし、そうなれば利用者の面倒が増えることは否めない。
次のページ
「もっといい人がいるかも...」が結婚を遠ざける >
更新:11月22日 00:05