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チャーチル一族の究極の「不倫」接待 アメリカの参戦を狙った数々の陰謀とは?

渡辺惣樹(日米近現代史研究家)

 

チャーチル一族の究極の「不倫」接待

このころ、米国人俳優ヴィック・オリバーとの結婚が破綻していたチャーチルの娘サラはロンドンに戻っていた。52歳の大使と27歳のサラはたちまち不倫の関係に落ちた。公然の「秘密」だったが、誰も口にしなかった。米国の要人との「特別な」関係は愛国的行為と見なされた。

同じころ、英国への武器支援の打ち合わせにアヴェレル・ハリマンがロンドンにやって来た。のちに駐ソ大使となるFDRのお気に入りである。歓迎のパーティーがロンドンの高級ホテル「ザ・ドチェスター」で開かれた。

ハリマンの隣に座ったのはパメラ・チャーチルだった。長男ランドルフの妻である。彼女は、肩を大きく晒さらしたドレスに身を包んでいた。食事のあいだ、彼の腕にその指をしなやかに纏わり付かせ、彼のたわいのないジョークに破顔した。

2人はその夜を共にした。闇夜の中でドイツ空軍の爆撃が続いていた。チャーチルは、息子の放蕩で2人の結婚生活がすでに破綻しているのを知っていた。

アメリカからやって来た2人の大物は、チャーチルの実の娘と義理の娘を抱いた。その行為をチャーチルは黙認した。この2人の大物が英国支援に全力を尽くしたことはいうまでもない。

ウィナントもハリマンもハンサムな男であった。2人の娘には不貞の罪悪感はあっただろう。しかし、同時に愛国の行為であるという意識もあったに違いない。チャーチル一族の究極の接待攻勢であった。4人の「不倫」は近現代史の影の部分(歴史の細部)である。

 

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