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1秒に「27万円」増えていく...膨張する日本の借金が「問題ない」と言い切れないワケ

2022年01月26日 公開
2022年10月24日 更新

宮本弘曉(東京都立大学教授)

 

財政危機は決して他人事ではない

国際的な視点で見ても、国際通貨基金(IMF)も2020年に公表した報告書で日本の債務維持可能性に懸念を示すなど、国内外で日本の財政危機を危惧する声が高まっています。「財政危機」とは、国が借金を返せなくなる、つまり「国家破綻」の状態に陥ることです。

財政破綻は世界では10年もしくは数年おきに発生しており、決して珍しいことではありません。主な事例としては2000年前後のロシアやアルゼンチンの債務不履行、2010年にギリシャで起きた財政危機がよく知られています。

ただし、国が借金をすること自体は決して悪いことではありません。たとえば、インフラ整備や教育投資のように、将来の国家発展に繋がる借金は必ずしも悪いとはいえないでしょう。また、不況時に景気刺激のための財政支出を行うことは、財政政策の基本でもあり、そのために一時的に財政赤字に転じることはありえます。

しかし、借金の額が大きくなりすぎると、「あの国は借金を返済できなくなるのでは」と市場関係者が疑問をもつようになります。その結果、日本国債が買われなくなり、新たに借金をすることが難しくなります。これが財政危機の状態です。言い換えれば、政府の財政運営への信頼が失われた時には、財政危機はいつ起きてもおかしくないということです。

 

高齢国家では財政政策の有効性が低下

日本が借金大国になった理由のひとつは、高齢化により社会保障給付費が増大したことにあります。今後、高齢化はさらに進んでいくので、このままだと社会保障給付費も増大することが見込まれます。

また、高齢化は経済成長にもマイナスの圧力をかけるので、税収を圧迫する可能性があります。つまり、高齢化により歳出、歳入の両面から日本の財政はますます厳しくなることが予想されます。

それだけではありません。高齢化は財政政策の効果にも影響することがわかっています。私がIMFで行った調査研究では、高齢化が進んだ経済では、財政政策の景気浮揚効果が弱くなることがわかりました。つまり、高齢国家では財政政策の有効性が低下するのです。

高齢化が進んだ経済で財政政策の有効性が著しく低下する理由は、高齢化により「乗数効果」が働きにくくなるためです。公共投資など政府支出の増加は、雇用機会を増加させ、人びとの所得を高めます。その結果、消費が拡大、総需要は増加します。増加した需要を満たすため、企業は生産を拡大、それが人々の所得をさらに増加させますが、これが財政政策の乗数効果と呼ばれるものです。

乗数効果により、政府支出の増加の何倍もの国民所得を増加させる可能性がありますが、この効果は退職した高齢者には直接的に影響しません。なぜならば、雇用機会が増えても、退職者はそもそも職探しをしていないため、雇用者の雇用拡大には繋がらないうえに、彼らは賃金所得を受け取っているわけではないので、所得増加による消費の増加も見込めないからです。

また、年齢の若い層と高齢者ではその消費パターンが異なり、財政政策に対して消費を増やす傾向にあるのは若者であることがわかっています。経済全体で高齢者の割合が高まれば、財政政策に対する個人消費の反応も鈍くなります。このように、高齢化が進んだ経済では財政政策の景気浮揚効果は弱くなるのです。

財政政策の有効性を高めるためには、労働市場改革を進め、高齢者や女性の雇用を促進し、労働力人口減少を少しでも弱める必要があります。もし高齢者の労働参加が進めば、高齢者の所得確保を通じて、消費需要の創出につながります。

また、年金、医療などの社会保障給付への依存も緩和され、勤労者の税負担も軽減されます。その結果、現役世代の所得増加、消費意欲の増大も見込まれるでしょう。また、労働供給を促進することは、長期的な経済成長率を底上げするのにも役立つと考えられます。

なお、高齢者を雇用し続けるためには、最新のテクノロジーを活用することが重要となります。コロナ禍でテレワークを実施する企業が増えましたが、働く場所や時間の柔軟性を高めるテレワークがさらに普及すれば、体力的に通勤が難しい高齢者にとって大きなメリットになると考えられます。

また、高齢化の先端を走る日本で高齢者の雇用を援助するためのロボットやAIが開発されれば、将来、高齢化に直面する国にも輸出することが可能で、自動車などに匹敵する一大産業となる可能性もあります。

 

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