――2016年、古坂さんがプロデュースされたピコ太郎のYouTube動画「Pen Pineapple Apple Pen(PPAP)」は世界的に話題を呼び、まさしく「世界の壁」を越えました。これは配信という手法がもつ可能性を日本人に教えてくれる「事件」でもありました。
【古坂】当時は、世界的に「バズろう」とは思っていませんでした。まずは日本で面白いことをして、海外の方にも少しでも興味をもってもらえたらいいな、くらいの気持ちだったんです。英語といっても小学生で習うレベルの単語しか使っていません(笑)。
ただ、音楽のバッキングトラック(歌がない伴奏のみの音源)、いわゆるカラオケのオケ(オーケストラ)にはこだわりました。だから歌詞の意味はまったくわからなくても、何か気持ちが乗るような音楽に仕上げたつもりです。
――「PPAP」の配信開始から数年が経ったいまでも、あの独特のメロディをなぜか無性に聴きたくなるときがあります(笑)。
【古坂】ありがたいです(笑)。J-POPでは昔から、「失恋を歌ったこの曲の歌詞に共感できる」とか、メロディ以上に歌詞が注目されがちです。それも日本ならではの素晴らしい文化なのですが、僕はもっと楽曲のメロディラインやアレンジに意識を向けてもいいと感じます。海外では言語や人種が多様な事情もあってか、メロディのほうが重視されているように思う。
日本人らしい機微に触れる歌詞に加えて、オケの力も伸ばせば、さらにクリエイティブな作品が増えていくはずです。
――日本のお笑いに対しても、しばしば「ドメスティックで世界に通用しない」と指摘されることがあります。この意見についてどうお考えですか。
【古坂】はっきりと言えば、日本の笑いは世界に通用しません。でも、これは決して日本の笑いのレベルが低いわけではなくて、事情はどこの国も同じです。
そもそも、世界共通の「深い笑い」なるものが、本当に存在するのでしょうか。「転ぶ」「変な顔をする」「おならをする」といったわかりやすい動きで笑いをとれることはあっても、漫才やコントで世界にウケるかと言えば、どうしても難しい。というのも、そうした「深い笑い」は、あくまでも演者と観客の間に何らかの共通項があるときに生まれるからです。
たとえば、ある生徒がクラスの先生のモノマネをして、クラス中が大笑いしたとしましょう。でも彼が同じモノマネを全校生徒の前で披露しても、その先生を知らない人はポカンとするはずです。
また、日本人なら「僕は徳川家康です」と言いながらホトトギスをとっちめようとしたら、「それじゃあ信長じゃねえか!」というボケとツッコミが成り立ちます。でも外国人でよほど日本の歴史に興味がある人以外は、何が面白いのかさっぱりわからない。「深い笑い」を世界中に届けるには、相当な「壁」があるのです。
――日本のエンタメを海外により発信していくには、世界中の人に認識してもらえる共通項を増やしていくことが必要ですね。
【古坂】それこそ、『進撃』のような漫画やアニメは、日本が世界とつながるうえで大きな強みとなります。また、世界のなかでの日本の位置を認識して、自己プロデュースしていくことも必要になるでしょう。僕もピコ太郎さんと一緒に、さらに高い「壁」に立ち向かっていきますよ(笑)。
更新:11月27日 00:05