2021年08月05日 公開
新型コロナ禍により、日本が長年にわたり着手できなかったデジタル化の遅れが露呈している。そんな状況を打開すべく、東京都では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を梃子に都の行政システムを変革する「シン・トセイ 都政の構造改革QOSアップグレード戦略」(以下「シン・トセイ」)が打ち出されている。
旗振り役を務めるのは宮坂学副知事。ヤフー株式会社の社長や会長を歴任した経験から、内外よりその手腕に期待する声が寄せられている。都政のデジタル化をいかに進めるのか。「東京都を起点に日本を牽引する」という宮坂副知事の取り組みと覚悟について聞いた。【聞き手:Voice編集部(中西史也)】
※本稿は『Voice』2021年8⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。
――行政組織での改革を民間企業と比べたとき、法的制約や予算の観点から実行しづらい面があると思います。そうした状況下において、行政のデジタル化を進展させるうえでは何が最大の肝になりますか。
【宮坂】非常に重要な議論です。1つに絞るのは難しいので、3つの観点からお答えしたいと思います。
まず1つ目は、職員自身のデジタルに対する感度をいま以上に高めることです。なにも職員全員がプログラミングを書けるようになるとか、データサイエンティストになるという話ではありません。
都の職員がいまよりも2割程度でいいので、デジタルツールへの接触頻度やスキルを向上させられれば、都政が大きくレベルアップできると僕は考えています。
とりわけ幹部職員には、情報技術の活用の実務を現場やベンダー、コンサルタントに任せきりにするのではなく、自ら学ぶ姿勢が不可欠だといいたいですね。行政に限らず、組織とは上の者の意識が変わらなければ、全体に改革意欲が浸透しないものでしょう。
2つ目はいまの話の延長線上にありますが、都庁内部のデジタルマインドを高めたうえで、外部調達を図るべきです。たとえば、都庁の行政サービスでアプリを開発する際には、専門の事業者に外注する必要があります。そのとき、アプリの全体像について発注元の我々が理解していなくては、事業者に丸投げになってしまう。
業種を問わず仕事を受注した経験がある方は思い当たる節があるでしょうが、コンセプトが不明瞭で曖昧な指示の発注ほど困るものはありません。
出版の世界を例に挙げれば、編集者が誰かに執筆を依頼する際、全体の企画趣旨やそのなかで何を書いてほしいのか、あれやこれやとディレクションすると思います。そうしてプロ同士がアイデアを戦わせることで、より良いコンテンツが出来上がっていくのではないでしょうか。
――おっしゃるとおりです。
【宮坂】我々行政だって同じことです。民間企業に何かを外注するときに、サービスの構造や機能を一定程度は理解しておかなければ、プロとはいえない。外部のデジタル人材の登用とともに、都庁職員の情報技術への発注能力を高めていかなければなりません。
最後の3つ目は、デジタルサービスの開発プロセスや調達に関する行政のルールや仕組みを変革することです。先ほどのアプリの例でいえば、開発が実現できたとき、予算の都合上もあり、サービスの契約は単年度が基本です。
そのときに問題になるのは、納品されたらそこでおしまいで、システム変更を施そうとしても翌年に予算を確保しないと着手できないことです。デジタルサービスの本質は、何かあれば24時間365日アップデートできること。
毎日進化していくアプリと1年に1回しか改良されないアプリを比べれば、前者のほうが利用者のニーズに合致するのは明らかでしょう。このように時代の流れに即していないルールや仕組みがまだ残っており、適宜変更していく必要があります。
――東京都におけるルールの変更となると、条例などを改正する必要がありますね。
【宮坂】昨年10月には、行政手続きを原則デジタル化する基本方針を定めた「東京デジタルファースト条例」が都議会で可決され、今年4月に施行されました。この条例をもとに、さらなる行政のデジタル化やワンストップ化(サービスによって複数に分かれていた窓口を総合的に1カ所で行なえるようにすること)を進めていきます。
更新:11月22日 00:05