(写真:まるやゆういち[左]、吉田和本[右])
新型コロナ禍で日本のデジタル化の遅れが浮き彫りになった。一方で、厚生労働省とLINEによる「新型コロナウイルス感染症対策のための全国調査」等、先進的な取り組みも見られる。我々はいかにしてデジタル化を進めるべきなのか。
行政・規制改革担当とワクチン接種担当を担い、「次期総理に最も近い政治家」と呼ばれる河野太郎大臣と、科学を駆使した社会変革を実践するデータサイエンティスト・宮田裕章氏が特別対談(聞き手:亀井善太郎[政策シンクタンクPHP総研主席研究員])。
※本稿は『Voice』2021年4⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。
――(亀井)宮田さんは、厚生労働省とLINEによる「新型コロナウイルス感染症対策のための全国調査」に携わりました。この取り組みにより、未知の感染症だった新型コロナの実態が「見える化」されたように思います。
【宮田】コロナが日本国内で流行し始めた2020年2~3月ごろは、感染の実態がほとんど掴めない状況でした。そこで、約8300万人のユーザーを抱えるLINEと協力し、現状の把握を行なったわけです。
第一回調査(2020年3月31日~4月1日)の結果、感染は主に飲食の場で広がっていることがわかりました。コロナ第三波への対策として飲食の場での感染防止が重視されて議論を呼びましたが、そこさえ抑えれば相当程度感染を防げることは、調査で明らかになった事実です。
その後、二回、三回と調査を続けていくうちに、今度は15歳から45歳までの比較的若い世代で感染が広がっていることがわかりました。
このように、データの役割とは実態を把握しながら多くの人が納得できる手がかりを得ていくことです。今後も、不確実な状況のなかでも前に進まないといけない局面に直面するでしょう。そのとき、私たちを照らす光となりうるのが、データの収集・解析なのです。
【河野】宮田さんが関わった調査は、間違いなく画期的な取り組みです。「次なる危機」がいつ私たちを襲うかわからない状況ですから、つねに備えなければなりません。
個人的な体験でいえば、2016年4月の熊本地震のとき、私は防災担当大臣として被災地の復旧を指揮する立場でした。ウイルスとは違って局所的な災害だったこともあり、アナログな手法で対応しましたが、被災地からもご評価いただく声が多数寄せられました。
しかし、コロナ禍のように対象地域が広いと、アナログではどうしてもきめ細かい対処ができない。そのときにデジタルデータベースがあれば、支援の足りない場所を浮き彫りにしてピンポイントでの手当てが可能です。
私自身、コロナ禍に直面し、行政が現在保有しているデータだけでは不十分だと痛感しました。たとえば、国民の確定申告のデータは一年前の情報ですから、コロナによってその方の収入がどれだけ減ったかはわかりません。
これがイギリスだと、国民の二週間~一カ月スパンの収入データがありますから、「この家庭は収入が大きく減っていて、しかも子どもが五人もいるから最初に手当を出す必要がある」といった、ピンポイントの対応を実践しています。
自戒を込めていうならば、もしも熊本地震のあとにでもデジタル庁を立ち上げていれば、今回のコロナではまったく違う対応ができていたのではないか。当時はアナログでうまくいってしまったがために、かえってデジタル化への動きが進まなかったのも事実です。
宮田さんが行なわれたLINEの全国調査のように、幅広く、そしてリアルタイムでデータを集める制度設計に、早急に取り組まなければなりません。
更新:12月18日 00:05