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橋下徹「政府は“五輪貴族”の来日をやめさせる決断を」

2021年07月07日 公開
2024年12月16日 更新

橋下徹(元大阪府知事/弁護士)

橋下徹
(写真:大坊崇)

開催間近に迫った東京五輪、政府はどのようなプロセスで観客の有無や形式について決めるべきだったのか。菅政権がもつ強みと弱みとは。維新の会創設者であり、大阪府市の行政を担った橋下徹氏が、リーダーの「決断力」について語る。(聞き手:Voice編集部 中西史也)

※本稿は『Voice』2021年8⽉号より、⼀部抜粋・編集したものです。

 

菅政権の得意分野と苦手分野

――新著『決断力』(PHP新書)は、橋下さんの大阪府知事・市長時代の経験をもとに、リーダーがいかに適切に意思決定するかについて、具体策が書かれています。菅政権はいま、まさに新型コロナ対応で「決断力」を発揮すべき局面ですが、政府の対策をどう評価されますか。

【橋下】菅政権はコロナ対応で厳しい批判に晒されています。僕もいろいろと問題を指摘してきましたが、一方でワクチンの普及に関しては、着実に成果をあげ始めています。

菅(義偉)さんはコロナの感染対策といった「正解の見えない問い」は苦手ですが、ワクチン接種という「正解の見える課題」に対しては力を発揮するタイプだといえます。

現在は「一日100万回接種」の目標に向かって普及を進めており、7月末までに99%の自治体が高齢者への接種を終える予定だという。ワクチン接種を管轄する厚生労働省を中心とした官僚組織は、いうまでもなくコロナ対応に追われていますが、そんな彼らをここまで一気に動かすのは、並大抵の力量では不可能だったでしょう。

菅政権はワクチン接種以外でも、たとえば携帯電話の料金引き下げやデジタル庁の創設といった課題を迅速に実行してきました。いずれもやはり、「答えが明確な課題」です。

だからこそ、大号令をかけて、なおかつ人事権をちらつかせて官僚組織を動かし、問題解決に向けて実行を重ねてきた。これはまさに、僕が以前に『実行力』(PHP新書)で書いた手法です。

コロナ対応への批判で内閣支持率は低迷していますが、他の政策については評価されて然るべきですよ。

――ただ、東京オリンピック・パラリンピックの開催可否をめぐっては、取材時点(2021年6月4日)では国民の支持を得ているとは言い難い状況です。

【橋下】五輪の開催は究極の「答えの見えない問い」で、菅さんにとっては不得意の問題ですからね。案の定、菅政権は開催への決定プロセスを十分に示すことができず、国民の心をつかみきれていません。

本来ならば遅くとも今年4月までには、開催可否と観客の有無などの基準を決定するべきでした。一日も早く、五輪開催賛成派と反対派で徹底的に議論をさせるべきだったのです。そして、その内容はフルオープンで国民に発信し、「いつまでには必ず結論を出す」と期限を決めるべきでした。

今回のように国論を二分する問題では、賛成派も反対派も自らの考えを全面的に押し通すことはできません。五輪は多くの人が移動して集まる祭典ですから、コロナの感染対策を重視する人は開催中止を叫びます。

ところが世界に目を向ければ、今年6月初旬、EU(欧州連合)は日本を「コロナ安全国家」に認定することを決定しています。世界各国の感染状況と比べれば、日本のそれは一桁も二桁も少ないのです。日本の感染状況については日本国内と海外では捉え方が異なるわけです。

経済の観点からも考えてみましょう。東京大学大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授と藤井大輔特任講師の研究が興味深いデータを導いています。

国内のワクチン接種が一日に60万本のペースで進み、大会期間中に海外から選手や関係者など10万5000人が入国して、このうち半数がワクチン接種を終えていると想定したとき、開催が直接の原因となって増える東京都内の一日あたりの感染者数はどれくらいか。

じつは、平均15人程度にとどまるというのです。もちろん人流抑制といった前提条件はありますが、マクロな視点でみれば、それほどの影響はないと解釈することもできるわけです。

次に政治的に考えると、2022年には中国の北京で冬季五輪が開催予定ですよね。もしも日本が東京五輪を中止すれば、世界から「あの程度の感染状況で五輪を中止した国」というレッテルを貼られるでしょう。

そのうえで、もしもその半年後に中国が北京五輪を成功させれば、「日本はコロナに負けて、中国は勝った」というイメージが醸成されるのは必定です。

国際社会からの評価に鑑みれば、日本が五輪の中止を決断することは、じつに大きなリスクであることは否めません。

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