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もし日本がNATOに参加したら...新冷戦で求められる「新たな外交戦略」

2021年05月11日 公開
2022年01月26日 更新

グレンコ・アンドリー(国際政治学者)

 

TPPをベースに日本が働きかけを

環太平洋の軍事同盟を実現する最も現実的な方法は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)をベースにすることだ。TPPは経済同盟であり、TPPが本格的に稼働すれば、加盟国の間で巨大な経済圏が生まれる。

TPPが本格化するためには、アメリカに参加してもらわなければならない。日本を始め、TPPの現参加国は将来の集団防衛体制の構築を見据え、アメリカがTPPに戻るように働きかけるべきである。

巨大な経済圏が誕生し、自由・民主主義国による共存共栄の空間となれば、その空間を中国やロシアなどの独裁国から守る必要性が出てくる。その時は、TPP参加国同士でお互いを守る義務を伴う軍事同盟を結ぶことが、いちばん自然な流れである。

もちろん、いきなりTPPの全参加国が自動的に軍事同盟を締結するわけではない。

まずは日本などTPPの主要国と、いわゆるファイブ・アイズ(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、機密情報を共有する5カ国)がNATOと同じ中身の軍事同盟を結び、明確な参加基準を設ける。その後、参加基準を満たした他のTPP参加国が徐々に加盟すればよい。

なぜそうするかというと、TPPにはベトナムやシンガポールのように、民主主義国ではない国も参加しているからだ。

軍事同盟の参加基準には、自由主義経済や共通の敵の存在だけではなく、民主主義や法治主義も必要である。権威主義体制の国を民主主義国の軍事同盟に加盟させれば、いずれ必ず価値観に基づく軋轢が生じるからだ。

 

一国への軍事攻撃は全加盟国への攻撃と見なす

加盟国が増え、環太平洋の軍事同盟がNATOと並ぶ強力な安全保障体制に成長すれば、いよいよ両同盟の合併もしくは連帯の交渉を行い、両同盟の全加盟国の承認を経て巨大な軍事同盟を形成すればよい。

ポイントは、両同盟の全加盟国は今のNATOと同じく「一国に対する軍事攻撃は、全加盟国に対する軍事攻撃と見なす」という原則で動くべきだ、ということである。

つまり、どちらかの同盟の加盟国に対する軍事攻撃は、NATO全加盟国への攻撃であり、環太平洋の軍事同盟の全加盟国への攻撃であると見なされる。

もしそうなれば、いかなる凶暴な国であっても、反撃を恐れて軍事攻撃をやめるだろう。

 

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