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「ワクチン有効率60%」でも6割の人に効くわけではない…誤解されがちな用語の真の意味

2021年06月02日 公開
2022年10月12日 更新

中西貴之(サイエンスコミュニケーター)、宮坂昌之(大阪大学名誉教授)

ワクチン

身のまわりのあらゆる事物にはリスクが伴う

このとおり、ワクチンや医薬品において、100%安全だと言い切れるものはありません。

極端な話をすれば、調味料として何気なく使っている食塩も、科学的に見れば危険性がある物質だとみなすこともできるのです。動物実験の結果ではありますが、体重1kgあたりわずか3グラムの食塩を食べさせただけで50%の確率でネズミは死亡するのです。

これを成人男性に体重換算すれば、ステーキ1枚分よりも少ない量で死んでしまう可能性があると推測されます。

身の回りのあらゆる事物に潜むこのような危険性のことを「リスク」と呼びます。私たちは生きるにあたって、病気の予防や治療にかかわらず、常にリスクを取らなければやっていけないのです。

薬局で普通に棚に並んでいる胃薬や痛み止め、あれらをみなさんは「安全な薬だ」と思って購入していますか? もしそうだとしたらそれはとんでもない間違いです。

正直言って、すべてのワクチン接種にはリスクが伴います。だからといって、ワクチンを接種しなければ感染症を発症したり拡散したりするリスクがあります。

一方で、すべてのワクチン接種には効果があります。ワクチンは研究・開発段階で潜在的な危険性と、接種で得られる効果について、十分な検討が成されており、効果が危険性を遙かに上回るものだけが医療の現場に出ます。

したがって、正規に出回っているワクチンが危険か安全か、という議論は行うに値しないと考えています。確かに過去にはワクチン禍はありました。しかし、そんな100年近くも前の医学の話を21世紀に持ち出しても意味がないと思うのです。

 

ワクチンに対して「副作用」という用語を使わない理由

医薬品に関しては「副作用」という言葉があります。これはその医薬品本来の治療作用以外の好ましくない事象のことで、たとえば痛み止めで胃炎が起きたならば、胃炎は副作用と呼ばれます。

一方で、ワクチンの場合は「副反応」と「有害事象」という表現が使用されます。ワクチンでみられる副反応とは接種部位の腫れ、発熱など、ワクチンの直接作用のことです。

副作用という表現を用いないのは、これらはワクチン接種によって引き起こされる免疫学的な正常な体内反応によって起きるからであって、ワクチンに私たちのからだが正常に反応していることを示しているからです。したがって副作用とは意味が異なります。

たしかに接種部位が腫れたりすることは不快で不安なものかもしれませんが、それらは一過性のものであり、むしろ「ワクチンに自分の体の免疫系が反応してくれている」とワクチンの効果を実感してもらうように、前向きに捉え、副反応を理由にワクチンを忌避しないでいただきたいと思います。

これに対して「有害事象」とはワクチン接種後に起きたすべての不利益なことを包括した表現で、ワクチンとの因果関係の有無は問わない、非常に広い範囲の出来事を含みます。

厚労省がWebサイトで公開している「予防接種後の有害事象」という資料においては、「予防接種後に接種部位が腫れた」は副反応かつ有害事象。「予防接種後に交通事故に遭った」は有害事象。「予防接種後に痛みで失神した」は副反応かつ有害事象、とされています。

交通事故の例などは「ええ?」と思われるかもしれませんが、有害事象の分類には「偶然の事象」も含まれるのです。

 

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