2021年02月17日 公開
2022年10月20日 更新
10年前の原発事故の際、1カ月足らずで、感情的・攻撃的な「少数のカリスマ」の言葉が言論空間の主導権を握った。少数のカリスマを立て、旧来権威への信頼転覆を狙えば、影響力のあるカルトメディアは簡単に誕生するのだ。社会学者が「言論空間が支配される仕組み」を看破する。
※本稿は開沼博『日本の盲点』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
“自分の意見を主張している”という人の大半が、結局は他人の主張の受け売りばかり。しかも、その「他人」とは感情的かつ攻撃的な言葉を吐き続けるごく少数の「小さなカリスマ」が占めている。事実に立ち返り、冷静に議論する者たちの声はかき消されて排除されている―― 。
そんな現実を解き明かしたのが、2018年8月、科学雑誌『PLOS ONE』に公表された論文「福島第一原子力発電所事故後の半年間における、放射線に関するTwitter 利用とインフルエンサーネットワークの可視化についての分析調査報告書」だ。
福島第一原発事故とTwitter を対象に分析した論考だが、現代の言論構造に普遍的に見え隠れする特徴を抽出している。
原発事故直後、情報が錯綜するなか、政治・行政や専門家、マスメディアへの不信感が増し、何を信じてよいかわからず混乱した人びとの一部はSNSに向かった。
大規模複合災害がSNSを重要な情報インフラとして、社会的地位を高めたことは確かだ。「炎上」を繰り返しながら、良くも悪くも「SNS的なるもの」は単体として存在するものから、より社会のさまざまな部分と癒着する形で存在するようになってきた。
もちろんこれまでにも、社会にインターネットが根付くなかで「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」といわれる、一部の極端な主張が過剰に伝播し、自分が見たいものしか見ることができない社会現象が生まれつつあるとの指摘はあった。
しかし、この論文が注目に値するのは、3・11という世界史的事件を事例として深く切り込むことで、
1)一カ月足らずで、悪貨が良貨を駆逐するかの如く、感情的・攻撃的な「カリスマ」の言葉が言論空間の主導権を握り、固定化するスピード感
2)2500万件のツイート・リツイートのうち、40%を影響力のある上位200アカウントが占めたという言論の寡占・絶対主義的状態
3)そこにおいて、伝統・権威ある大手媒体や公的機関の発表が、個人名で活動する発信者にたやすく負けていく信頼転覆の構図をあぶり出したことにある。
意図してインターネットを狡猾に使うこと、つまりSNSに代表される一見言論の自由・公平が大前提の言論空間を隠れ蓑とするなかで、ある思惑に沿った一定の言論の寡占・絶対主義的状況と、その言論構造の固定化を実現する道筋を描き出すことが可能になっていることを示している。
感情的・攻撃的な意見を表明し続ける少数のカリスマ(100人、200人でよい)を立てるとともに、民主的な議論の場を担保してきた旧来権威への信頼転覆を狙えば、そう時間をかけずに事実や冷静さなどを人びとの視野の外に押し出したカルトメディアをつくることができるのである。
更新:11月22日 00:05