2021年03月10日 公開
2021年07月16日 更新
僕が被災地の方々と接するなかで最も強く感じたのが、人と人が交流することの大切さです。そこで2013年11月、気仙沼にカフェ「K-port」を開きました。以降、この店は街の人たちとつながる拠点の一つになっています。
昨年来の新型コロナウイルスの感染拡大はカフェの営業にも大きな影響を与えていますが、それでも下を向く暇はありません。感染者数が増えてまちの人通りが減るなかで、従業員は感染のリスクを背負って店を開かなければならない。
だから僕は、感染状況を踏まえながら定期的に店舗に足を運び、加えてオンラインミーティングを使って従業員と日々連絡をとっています。
また、直筆のメッセージを綴り、毎日のようにFAXを店に送っています。ペーパーレスのご時世にはそぐわない行為だと自覚していますが(笑)、直筆だからこそ伝わる熱があるはずです。
メールでは、本当に渡辺謙本人が書いたのかわからないでしょう? メッセージを書くといっても、時間にして10分程度です。1日24時間のうちの10分間は、気仙沼や「K-port」のことを考える。僕はその時間だけでも、被災地と毎日繋がっていたいのです。
日本人は震災を「検証」しているか――。月刊誌『Voice』2020年4月号でもそう訴えたように、我々は歴史的危機を論理的に検証してきたのか、僕はつねづね疑問に感じてきました。
昨年公開した映画『Fukushima 50』で、僕は東京電力福島第一原子力発電所の吉田昌郎所長を演じました。
原作(門田隆将著『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』〈角川文庫〉)を読み込むなかで、現場と東電の本店、そして政府それぞれのあいだに生じたコミュニケーションギャップに愕然としました。
東日本大震災の教訓が「現場のニーズをボトムアップで吸い上げること」だとすれば、このたびのコロナ禍で活かされているとは思えないのです。いま、コロナによってあらゆる業種の人びとが苦境に立たされています。
最前線で奮闘する医療従事者、休業を迫られる飲食店や観光業、我々のようなエンターテインメントに携わる人間……。実際には誰もが何がしかの影響を受けているはずです。
ところが、今回も東日本大震災のときと同様に、政府はトップダウンで一律的に対応しているように思えてなりません。「未曾有の事態」とはよくいわれるけれど、いまの時代、「想定外」の出来事は今後も必ず起きてきます。
過酷な局面に際し、現場の声に耳を傾け、可能なかぎり吸い上げたうえで何事も差配していく。そんなリーダーであってほしいものです。
もちろん、我々は人間ですから、すべてにおいて完璧な対応なんてありえない。だからこそ、そのうえで、国と自治体の関係は適切だったのか、省庁間の横の連携はうまく機能したのか、「第一波」の封じ込め策は科学的だったのか、こうした論点の徹底した検証を継続的に行なっていくべきなのです。
更新:11月22日 00:05