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「心の健康」を支える人生の選択肢

2021年03月03日 公開
2022年10月17日 更新

坂上忍(俳優・タレント)

坂上忍

テレビドラマや映画、舞台で活躍し、映画監督や舞台の脚本・演出も手掛ける坂上忍氏。近年はバラエティ番組に多く出演し、司会としても多忙を極めながら1日5箱(100本)、たばこを吸うという。

「喫煙は有害」「健康第一」の世論が大勢を占めるなか、愛煙家を続ける理由を訊ねた。(取材・構成:清水泰)

※本稿は『Voice』2021年3⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。

 

どれだけいじめれば気が済むのか

――コロナ禍で身体を健康に保ちたい、という欲求が高まっています。たばこは喫煙者にとって最高のストレス解消法ですが、たばこを遠ざける風潮が広まると、かえって心身の健康を損なってしまい、仕事や家庭生活に支障をきたすのではないでしょうか。

【坂上】愛煙家には愛煙家なりの、吸わざるをえない理由があるんですよ。

たとえば、僕にとっていちばんストレスが溜まるのは「書く」仕事。

本業ではないから、映画や舞台の脚本であれコラムであれ、書きたいモノを書くスタンスで、それゆえの苦労があります。書きたい題材が生まれないと何も作業が始まらないので、いつもゼロからのスタートです。

根本のテーマ選びから筆者に責任が生じるわけで、究極の孤独な作業というか、やりがいがある半面、ストレスたるや半端ないわけです。

筆が止まるとたばこの繰り返しですから、そりゃあ、本数も増えますよ。喫煙できない場所では絶対に書けません。

ほかの喫煙者だって、日々の仕事や生活のストレスで吸わざるをえない必然性があると思います。

もちろんたばこが嫌いな人に迷惑をかけたくはないし、世の流れで煙たがられているのはわかっていますから、隅っこに追いやられても言うことは聞きます。喫煙マナーも守ります。

喫煙者の大半は僕と同じようにルールを守って吸っていますし、おとなしく隅っこに追いやられている。渋々ながら値上げにも従い、高い税金を払って財政にも貢献しています。

それでもまだ、たばこをいま以上に隅っこに追いやろうと、たばこのネガティブ情報ばかりが拡散されていく。喫煙は合法なのに、どれだけ喫煙者をいじめれば気が済むんですか、と。

生活になくてはならないストレス解消法をも、社会の圧力で奪おうとするような風潮はちょっと怖いですね。

 

人間は脆い生き物

――一部の強硬な嫌煙派からは隅っこに追いやって最後は全員突き落とすのではないか、という恐怖を感じます。

【坂上】僕の場合はたばこが「主食」なので、ますます意地になってやめる気がなくなるし、かえって世間と闘う力が湧いてくる(笑)。

睡眠薬とかもまったく飲まず、たばこが精神安定剤の代わりになっている人間ですから。迷惑のかからないところでひっそりと紫煙をくゆらせていて何が悪いんだ、と開き直っています。

僕にとってたばこのニコチンは、皆さんが嗜むコーヒーや紅茶のカフェインと同じで、生きていくのになくてはならないものなんですよ。

――コーヒーを飲み続けている人はある種カフェイン依存ですからね。

【坂上】基本的に、人って何種類かのものに頼って生きている存在だと思うんですよ。それがたばこなのかお酒なのか、はたまた恋愛なのか趣味なのかスポーツなのか……。いくつかのものに頼ることで、心のバランスを取っている。

それを権力によって無理矢理取り上げられてしまって、代わりになる合法なものを見つけられなかったら当然、生活のバランスを崩しちゃいますよね。

僕は5つのものに頼って心の平穏を保っています。犬と猫とたばこ、そして酒と競艇。1つでも欠けちゃ駄目なんです。

――たばこを取り除けば健康になるかというと、違うわけですね。まったく逆で、支えとするものがなくなったほうが人間、弱いわけです。

【坂上】僕が頼りにしているものを、5本の割り箸だとイメージしてください。その割り箸が心っていう形のないものを支えている支柱で、1本を抜いただけでも、心は下に落ちて壊れてしまう。

身体が多少、健康になったとしても、心が壊れてしまったら、トータルでは心身の健康は保てませんよね。心の支えを1つ失っただけでも前と同じように生きられないくらい、人間って脆い生き物なんです。

――心身の健康と生き方を支える大事なものを強制的に取り上げようとしているのが、現在の喫煙規制の流れですね。

【坂上】僕が頼る5つは、いわゆる「世の中の常識」的には悪いものが多いのかもしれない。でも、いいか悪いか、大事かそうでないかの取捨選択は自分でやるべきだと思うんです。

だって理想の生き方や幸せの価値観は人に強要されるものではなくて、究極の個人主義で、自己満足でしょう。だから何に頼って何を支えとするかという選択の自由は守られないといけないし、よいものも悪いものも選択肢にはあったほうがいいんです。

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