2020年12月12日 公開
【鈴木】面白いですね。ほかにも気になった語釈はたくさんあって、たとえば「読書」。
「〔研究調査や受験勉強の時などと違って〕一時現実の世界を離れ、精神を未知の世界に遊ばせたり、人生観を確固不動のものたらしめたりするために、(時間の束縛をうけること無く)本を読むこと。〔寝転がって漫画本を見たり電車の中で週刊誌を読んだりすることは、本来の読書には含まれない〕」と記されています。
【金田一】かなり硬い表現ですね。
【鈴木】そうなんです(笑)。でもこの説明を読むと、語釈を書いた方の読書に対する熱い思いを感じます。最後の「寝転がって」以降は、「読書とは本来こういうものだ!」という、世の中に訴えたいメッセージがあるんだな、と。
【金田一】面白いテーマですね。寝転がって読んだら読書ではないのか。これは意見が分かれそうです。「時間の束縛をうけること無く」の部分は、現代の忙しないビジネスパーソンには酷かもしれない。
また、漫画や週刊誌も読書ではないと記されていますが、編者の頭のなかにはドストエフスキーのような「高尚」な作品が浮かんでいたのでしょうか。このように疑問は尽きませんが、あくまでもこの語釈に照らすならば、残念ながら、現代日本で「読書」をしている人は随分と少なそうです。
【鈴木】そう言われてしまうと、私も「読書」の時間は少ないほうかもしれません……(苦笑)。というのも、普段は小説以外にも図鑑に触れる時間が多いので。説明やイラストが綺麗に整っているのが大好きなんです。だから私だったら、「読書」の意味を『新明解』よりも少し広く捉えて図鑑も含めたいです。
【金田一】私も鈴木さんの意見に賛成です。よく、「あなたの愛読書は何ですか」と聞かれることがありますよね。正直に言えば、あまり好きではない質問なのですが(笑)、私が1冊挙げるならば「電車の時刻表」。
これも、『新明解』の語釈では間違いなく「読書」には当たらないでしょう。それでも、私にすれば日常で繰り返し読むのはやはり時刻表なのです。このように、突き詰めていけば、言葉の解釈は人それぞれで良いと思います。
【鈴木】1つの単語の意味を巡って、これだけあれこれと話せてしまうのが、言葉、さらにいえば日本語の奥深さのように思います。
【金田一】「恋愛」というワードも、抽象的だからこそ解釈が分かれそうです。『新明解』によれば「特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、2人だけでいたい、2人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと」。
こちらは、冒頭の「特定の異性」という言葉がまず引っ掛かりますね。恋愛は異性間でしかできないのか、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の人たちはどうなるのか、と問いたくなる。
『新明解』が刊行されたのは2011年、編纂作業がそれより前だとすると、当時は現在ほどLGBTへの社会的意識が高くなかったとも考えられます。語釈が時代とともに変わりうるよい例でしょう。鈴木さんは「恋愛」の説明についてどう思いますか?
【鈴木】「恋愛」は、個人的な実感としてわからないのが正直なところです。とくに、語釈に書かれている「他の全てを犠牲にしても悔い無い」状況は、あえて私に置き換えれば「乃木坂の活動を犠牲にしても」ということになりますね。
私にとって乃木坂以上に大切な存在はないので、やはり考えられないです。一方で、作品として恋愛小説を読んだり、舞台で役を演じたりする機会はあるので、「恋って、こういう感じなのかな」と想像することはあります。
【金田一】この先、役者や歌手の道を歩んでいくのならば、恋愛をすることで磨かれる感性があるのも事実でしょう。
ただ、私もその昔、応援していた伊藤蘭さんが「普通の女の子に戻りたい!」と叫んでキャンディーズが解散したことは強く覚えていますから(笑)、鈴木さんやファンの皆さんの心情もとてもわかります。そう考えると、自分では体験しえない出来事を想像できる面でも、読書はうってつけの手段といえますね。
更新:11月25日 00:05