奇抜な発想と軽妙な掛け合いでコントや漫才、フリートークなど幅広い分野で活躍するお笑いコンビ「ジャルジャル」。9月26日には、コント日本一を決める「キングオブコント2020」で悲願の優勝を果たした。
ジャルジャル・福徳秀介さんの才能は、お笑いだけにとどまらない。11月、初めての長編小説『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館)を上梓した。芸人が小説を書くことの意味やネタ作りとの違い、さらなる挑戦を続けるジャルジャルの“野望”について聞いた。
※本稿は月刊誌『Voice』2020年12月号より一部抜粋・編集したものです
聞き手:Voice編集部(中西史也)
写真:小学館
――青春小説『火花』(文藝春秋)で芥川賞を受賞した又吉直樹さんなど、昨今は芸人が小説を書くことも珍しくありません。芸人が本に関わることについてどう思いますか。
【福徳】芸人がネタだけじゃなく、いろいろなかたちでアウトプットしているのは良いことだと思います。又吉さんが『火花』の次に書いた『劇場』(新潮社)はとくに大好きで、何度も読んでいます。
僕は前に『マンスリーよしもと』っていう吉本の雑誌に連載をもっていたことがあったんですけど、見開きで横のページが又吉さんだったんです。又吉さんは文章一つひとつに光と影があるというか、強弱が明確でかっこいい。一方で隣には、僕の作文みたいな平べったい文章が並んでいる(笑)。
それがめちゃくちゃ嫌で、敵わないことはわかっていてもつねに意識していました。又吉さんの文章は高貴でかっこいいから、自分は違う方向で書かなあかんな、と。そのときの経験が、いまの僕が綴る小説のスタイルに繋がっているのかもしれません。
――小説の言葉や構成のインスピレーションは、どのように浮かんでくるのでしょう。
【福徳】日ごろから気になったことをメモすることはほとんどなくて、この設定ならどういう言葉がいいかな、と考えを巡らしています。そこから登場人物になり切って一気に書いてしまう。あとから読み返したら、「俺、ええこと言うてた」と気づくこともあります(笑)。
――構想の仕方はネタづくりと異なりますか。
【福徳】ネタは深く考えるよりも、思いついた設定を相方の後藤と2人で即興でやってみます。ネタ帳には書かず、2人の脳ミソに記憶しているだけですね。
――アドリブを交えながら、実践してネタをつくり上げていく。
【福徳】はい。ごくたまに「もっとこうしたほうがええかもな」と話し合うくらいです。互いが何を考えているかはだいたいわかるし、たぶん僕と後藤は前世で通じ合っているんやと思いますよ(笑)。
――9月26日、「キングオブコント2020」で悲願の優勝を果たしました。漫才の王者を決める「M-1グランプリ」でも決勝の常連でしたが、コントには特別な思いがありますか。
【福徳】やっぱりコントをしているときが一番楽しい。漫才よりも表現の幅が広いし、言ってしまえば「何でもあり」です。漫才はあくまでもジャルジャルの福徳秀介と後藤淳平として舞台に立たないと駄目ですが、コントなら僕たちは誰にでもなれますから。
――ジャルジャルさんのネタの魅力は、奇想天外な発想と、「しょうもなさ」をとことん突き詰めている点だと思います。コント「めっちゃふざける奴」はその典型で、初めにこのネタを見たときはお腹が痛くなるほど笑ってしまいました。
【福徳】ありがとうございます(笑)。あのネタは自分たちから見ても面白いですね。僕たちはボケとツッコミの役割が決まっていなくて、ネタのたびに変わります。
自分がどちらをやるかで見える景色が違うんですが、僕は後藤がボケてるほうが好きなんです。自分がボケのときは、ツッコんでいる後藤を見ているだけなので。人が楽しそうにしている姿を見るほうが幸せじゃないですか(笑)。「めっちゃふざける奴」も、後藤がとことんボケるネタですね。
――あと印象的だったのは、数年前に地方の野外フェスでネタを生で拝見したときです。他の芸人がご当地の話や客いじりをするなか、ジャルジャルさんはいつもどおり、ネタだけの真っ向勝負でした。
【福徳】うわー、そのとき覚えてます。僕たちは基本的に、観客いじりはしないんですよ。お客さんは、僕たちがいつもやっているネタを見たいと思うので。
たとえば好きなミュージシャンのMCトークを聞くのも面白いかもしれないけど、結局は曲を歌ってほしいと思うじゃないですか。もしお客さんとの掛け合いが(明石家)さんまさんぐらい天才的に上手かったら僕らもやるけど、自分たちのパフォーマンスの強みはやっぱり“ネタ”なんですよね。
更新:11月22日 00:05