2020年11月13日 公開
SNSの台頭や新型コロナ禍により、マスメディアの役割が問われている。テレビ朝日アナウンサーの小松靖さんは、“忖度”することなく出演者のコメントにツッコミを入れる姿が印象的だ。コロナ禍で問われるテレビ報道の姿勢やマスメディアの責務について聞いた。
※本稿は『Voice』2020年12月号より一部抜粋・編集したものです。
聞き手:Voice編集部(中西史也)
写真:吉田和本
――新型コロナ禍に直面して以降、世の中にはさまざまな情報が溢れています。メディアが不安を煽っている面もあると指摘されますが、報道に携わるなかで感じていることはありますか。
【小松】あくまで個人的な見解であることを断ったうえで申し上げると、新型コロナの感染拡大による危険性をマスメディアが強調しすぎた面は否めません。
今年5月下旬に緊急事態宣言が解除された以降も、各局は日々の感染者数や感染拡大のリスクを連日報じていました。しかし私は、もう少し抑制的に伝えてもよかったと思います。
報道を観て不安を抱いた方が、半ばパニックに陥った状態で病院に訪れることがあったと言います。それで医療現場が逼迫してしまえば、本当に緊急の手当てが必要な新型コロナの感染者やその他の重症患者へのケアが疎かになってしまう。
神奈川県医師会は4月、公式サイトで「~神奈川県民の皆様へ~(神奈川県医師会からのお願い)」との約3000字に及ぶ声明を公開しました。
そのなかでは「専門家でもないコメンテーターが、まるでエンターテインメントのように同じような主張を繰り返しているテレビ報道があります」と苦言を呈しています。
テレビはワイドショーのなかで視聴者の感情に寄り添うと表明しながらも、決して専門的な見解とはいえない情報を広めることで視聴者に不安を与えて医療現場が混乱した、というのです。
テレビ報道の当事者であるわれわれは、神奈川県医師会によるこの指摘を真摯に受け止めなければなりません。もちろん、放送局の現場スタッフや経営陣を含めて、この難局において社会のためになる報道を行なってきたつもりです。
しかし未知のウイルスと向き合っている以上、慎重に情報を扱う必要がある。人びとの閉塞感が強まるなか、われわれは明らかになっているファクトに基づいて報道するという原点に立ち返るべきです。
――クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での政権の対応が国内外で批判を浴びていた際、小松さんは「大下容子ワイド!スクランブル」で、日本が人口当たりの死者数を抑えられている事実を指摘していました。
【小松】何をもって当時の安倍政権の対応を批判しているのかわからない、という思いがありました。
船内のグリーンゾーン(非汚染区域)とレッドゾーン(汚染区域)が不明瞭だとか、適切な防疫体制がとられなかったとの指摘がありましたが、無症状の潜在的な感染者が船内に散らばっているなかで、両者を明確に区別するのは容易ではなかったでしょう。
刻々と状況が変化する現場での措置に思いを致さず、「雰囲気」で糾弾するのはフェアではありません。私は政権を擁護したかったわけではなく、何をもってその対応を批判しているのかの客観的な材料を示すべきだと訴えたかったのです。
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更新:11月22日 00:05