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進まぬ「東京一極集中」解消…なぜ“住みにくい東京”に京阪神からも人が流入するのか?

2020年10月30日 公開
2022年07月04日 更新

曽我謙悟(京都大学大学院法学研究科教授)

 

戦後から変わらぬ「地域間再分配」制度

地方では経済が回っておらず、シャッター商店街はその象徴である。人口も減少の一途を辿り、自治体の行政サービスも維持しがたい。増田寛也氏の言葉を借りれば、このままでは「地方消滅」を待つのみである。ゆえに、地方への分散は喫緊の課題である。

これはよく耳にする言説だが、事実ではない。たとえば、店のシャッターを閉めたまま保有を続けるのは、収益はゼロでも固定資産税をはじめとする保有コストを支払えているということだ。それを本当に切迫した状況と言うのは難しい。

また、住民に提供される公共サービスの多くは全国で同じ水準で提供されており、人口あたりで見れば、むしろ地方のほうが手厚いとすら言える。

地方における公共サービスを支えてきたのが、地方交付税である。国税を元手として、地方自治体に財源を配分していく地域間再分配の仕組みであり、1954年以来、60年余り続いている。

経済が急速に発展するとき、格差の拡大が社会の不安定化を招くことは多いが、戦後の日本は、地方交付税により、この問題の抑制に成功した(曽我謙悟『日本の地方政府』中公新書)。

しかし問題なのは、安定成長期に入り、地方分権を経た現在においても、この仕組みが維持されていることである。小泉政権期における三位一体の改革で多少の変化はあったが、基本的枠組みは変わっていない。

国の予算全体の2割弱にもあたる約17兆円を割りあて、各自治体に財源の不足の程度に応じた配分を行なっている。使途に限定はなく、使い道は自治体の自由である。これによる再分配の程度は強く、先述したように、人口に比して地方の公共サービスはより充実したものとなる。

たとえば、今回の感染症対応では、保健所や感染症病床の不足が問題となったが、人口比で見れば、地方に比べ大都市部の不足がより大きいのは明らかである。

もっとも、東京の人々はそうは思っていない。2018年の内閣府の調査によると、都民が掲げる地方移住のネックの一つに、医療や福祉の不安があがる。

移住するつもりがない理由(複数回答可)を都内在住者に尋ねると、「医療・福祉サービスの水準が不安」を選ぶ人が22.5%にのぼり、職の問題、交通・生活の不便に次いで多い(「東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査」)。

ただし、こうした食い違いは、東京の人々の認識不足にのみ起因するとは限らない。人口比の病院数などではなく、高度な医療が受けられる大規模病院の絶対数で見れば東京のほうが充実しているからである。

むしろ東京の人の目に映っていないのは、こうした地方の公共サービスの相当部分を、自分たち、つまり都民の手で支えているという事実だ。具体的な事業に対する補助金は目につきやすく、利用者の少ない山間部の高速道路など「ムダ」が明らかな場合は批判も生じる。

そこで、小泉政権期の公共事業批判では補助金が削減された。しかしそれは、地域間再分配を終焉させたわけではない。地方交付税という見えにくいかたちでの財政移転は大規模に続いている。

たとえば国税の所得税の3分の1は交付税の原資となることが決まっており、東京の人々が納めた所得税の3分の1は東京以外の地域に配分される。しかしこうした事実は多くの東京在住者の意識には上らない。

逆に、受け手となる東京以外の人々の多くもこのことを知らないだろう。自分たちの町の財政の、ときに半分以上が地方交付税により支えられていること、その原資の多くは東京から来ていることを知るのは、自治体関係者にほぼ限られるだろう。

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