2020年09月18日 公開
2023年01月30日 更新
国安法によって、香港は米中新冷戦の最前線となった。アメリカは経済制裁の発動を宣言し、香港が享受してきた自由貿易港としての数々の恩典を無効化する措置に出た。
「香港の米系企業は4割が撤退を考えているとか。コロナで飲食店も廃業するところが多く、事務所の家賃相場は確実に下がって、その結果、地価も下がっているようです。でも、不思議なことに株価だけは下がらないか、上昇傾向ですらあります」(金融関係勤務)
この不自然な香港の株価は現在、数字だけは維持したいという北京政府が買い支えていることが原因だと言われている。だが、本格的な経済制裁はこれからだ。ヨーロッパ各国も追従の動きを見せている。買い支えはそう長く続くものではないとみられている。
デモ隊は、昨年秋あたりから、「攬炒(ランチャオ)」というスローガンを唱えるようになった。これは「ともに焼かれる」という「死なばもろとも」の意味の広東語である。デモ隊は、香港経済と香港自身を人質としたのだ。
「本格的な攬炒は、これからです。香港の中国全体に占める現在のGDPの割合は3パーセント。しかし、香港はアジアの金融センターであり、中国への投資の窓口です。中国経済をもっと焼いていくのはこれからです」(会社員男性)
彼は攬炒による自身の個人資産の損失は「問題ない」と言い切った。
いちばん大きく変わったのは、デモ隊の主役たちがいた学校なのかもしれない。香港の中学校(日本の中学・高校にあたる)は教育庁の介入によって、大きく変貌した。
「学校では授業などで政治の話をしてはいけないことになりました。それが懲戒の理由にもなります。また、私たち教師がデモなどで警察に逮捕されると、証拠がなくとも、有罪にならなくとも、すぐに解雇となったのです」
教育関係者は現在の状況をこう告白した。教育界には民主派が多く、デモ参加の学生たちを守る側だった。
「現在は、コロナ対策のため、ズームでのリモート授業がメインになっていますが、ここでは政治の話は絶対にできません。生徒の親などに親中派がいて、監視していて記録に残るからです。通識教育の教科書からは『天安門』や『雨傘』などの言葉も消えたようです」
通識教育とはリベラルスタディとも言われる香港独自の社会科科目である。大陸とは違い、社会問題などを自由に生徒に討論させるなどする。天安門事件や民主主義なども扱う。
香港の学生の政治に対する問題意識の高さは、この授業に原因があるとさえ言われていた。今後、政府は大陸並みの「愛国教育法」を導入する構えのようだ。
「教育現場への圧力は相当なものです。数年後には、『共産党万歳』というような生徒ばかりになるかもしれません」
それは大陸との同化にほかならない、香港の悪夢だ。
〈文中、敬称略〉
更新:11月22日 00:05