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香港からの米企業の撤退、地価の下落…抑圧の代償として「焼かれる」中国経済

2020年09月18日 公開
2024年12月16日 更新

小川善照(ジャーナリスト)

香港への圧力を強める中国。その実態は?2020年2月、「光復香港 時代革命」と記された旗を掲げるデモ参加者(筆者撮影) 

今年6月末に「香港国家安全維持法」が施行されて以降、中国当局により香港の自由はますます脅かされ、その圧力は日増しに強くなっているという。

ジャーナリストの小川善照氏は自著『香港デモ戦記』で、雨傘運動から昨年の香港デモの参加者たちの生の声を集め、2020年春までの香港デモの様子を伝えた。本稿では「国安法」以降の現地の状況をレポートする。

※本稿は月刊誌『Voice』10月号に掲載されたものを一部抜粋・編集したものです。

 

自由な香港の変貌ぶり

「現在、公共の場で、3人以上で集まることは、違法行為で禁固刑となります。政府批判の言葉は『国家分裂』を想起させ、これも違法行為となるため、白紙のボードを掲げていたんですが、それも逮捕の対象とされました。

コロナ対策のために着用義務化されたマスクを民主派のカラーである黄色いものにしたんです。しかし、このマスクすら当局は禁止と言い出したんです」

この言葉は、かつて取材した香港市民にリモート取材するなかで聞いた。

香港の政治的な自由さを知っている人ならば、その変貌ぶりには驚かされることだろう。現在の香港は「政府に反抗的なことを考えただけでも逮捕されかねない」恐怖政治が行なわれている。

こうした状況は「香港国家安全維持法」(国安法)が生み出した。国家分裂罪、国家政権転覆罪、テロ活動罪、外国勢力との結託の罪の4種類の国家の安全を脅かす犯罪行為を取り締まる法令として、もともと北京政府から早期の導入を促されていたものだ。

拙著『香港デモ戦記』(集英社新書)では、雨傘運動から昨年の香港デモの参加者たちの生の声を集めて、2020年春までの香港デモの様子を描いた。

その発売後、6月30日に全国人民代表大会(全人代)で国安法が採決されたことが報道され、同日夜に施行された。これにより新たな状況となったため、本稿では拙著で描かれなかった、その後の香港の人たちの姿を描きたい。

 

国安法施行に伴う動き

昨年の香港デモは「顔がない」反政府デモだった。特定のリーダーが不在で、市民たちはネット空間での活発な議論で抗議活動の方針を決めて、運動を動かしてきた。そこで使われていたのはロシア製暗号化ソフトのテレグラムだった。徹底したプライバシー保護によって、参加者の身元がばれないものだった。

「でも、いまは過疎な状態で参加者がかなり減っています。ソフト内で結成されていたグループも解散が相次いで、自分のスマホからこのアプリを削除する香港人も多いのです」

現在でもテレグラムに参加している在日香港人の話だ。

「いまでは、ここで書き込みをしたことを証拠にされる可能性も出てきたからです。独立を語っていた人たちは、国家分裂罪なら最悪、無期懲役での大陸送りになってしまう。それは殺されるも同然です」

それでもまだ、かなりの数の香港人がテレグラムを使っている。内容によっては当局が逮捕の証拠としかねないスマホ内のデータについては、他人に管理を任せている人も多い。逮捕などの情報が出た瞬間に、遠隔操作でデータを消去してもらうためだ。

「香港人の武器であったテレグラムは、すでに国安法によって無効化されています」

国安法施行を前に、多くの民主派の団体が解散を表明した。日本でも著名な周庭(アグネス・チョウ)などが在籍する民主自決派である「香港衆志(デモシスト)」、独立派である学生組織「学生動源」や、政治団体「香港民族陣線」である。これらは国安法の内容が伝えられ始めた6月30日の午後、次々と解散を宣言していった。

私が取材していた香港人のなかにも、連絡がつかなくなった人が出てきた。フェイスブックやインスタグラム、ツイッターなどのSNSを突然やめるのだ。

「家族がいる人や、次の逮捕だと実刑になる人などは、慎重にならざるをえない。和理非(和平、理性、非暴力という態度の平和的なデモ参加者)であっても、現場で逮捕されることが多くなった。言論の自由、集会の自由が保障されているはずの香港でそれは起きているのです」(民主派市民)

昨年のデモのスローガン「光復香港 時代革命」(香港をとりもどせ 革命の時代だ)という言葉が入った旗をカバンの中に持っていただけで逮捕され、二人で街頭に出ても、あと一人、まったく無関係な他人とひとまとめにされて「違法な集まり」として逮捕されるなど、警察はどんな理由を付けても市民を逮捕できるようになった。

当然、香港市民のなかには、海外脱出を考える者が続出している。海外移住は、話を聞かせてもらった相手がかならず一度は触れる話題だ。

「日本に移住するため、力を貸してほしい」(自営業男性)
「私は移住したいが、母は高齢で香港を離れたくないようだ。しばらくは香港にいるしかない」(女性会社員)
「複数の知人がアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアのどこかに移住の計画を進めている」(公務員男性)

自分たちが守ろうとした香港を捨てる結果となった彼らの心中は複雑である。

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