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感染症対策の第一人者が提言「第二波には“ハンマーとダンス”で立ち向かえ」

2020年07月16日 公開
2022年02月22日 更新

國井修(グローバルファンド〈世界エイズ・結核・マラリア対策基金〉戦略・投資・効果局長)

國井修(グローバルファンド〈世界エイズ・結核・マラリア対策基金〉戦略・投資・効果局長)

三大感染症といわれるエイズ、結核、マラリアと常に闘い続けるグローバルファンド。世界各国の政府、製薬会社からマイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ氏、ロックバンドU2のボノ氏といった著名人の支援を背景に、低・中所得国が自ら行う三疾病の予防、治療、感染者支援、保健システム強化を支援している。

この基金において戦略・投資・効果局長を務める國井修氏が月刊誌『Voice』2020年8月号において、感染症対策の専門家として日本の感染状況を分析し、これからの日本の取るべき方策を提示している。ここではその一部を紹介する。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年8月号、國井修氏の「日本型『ハンマーとダンス』の構築を」より一部抜粋・編集したものです。

 

公衆衛生対策と社会経済対策のバランス

日本はここまで、感染爆発や医療崩壊を防ぐことができたが、手放しで喜ぶことはできない。日本の感染対策は欧米諸国と比べると成功したように見えるが、台湾や韓国など、他のアジアの国々と比較すると見劣りするからだ。

アジアの国々では、過去のSARSやMERSなどの教訓から学び、今回のパンデミックでは危機管理体制の強化、ITを利用した接触者調査や警報システムの構築、検査キットの迅速な開発・拡大、徹底したリスクコミュニケーションなどを果敢に実践した。

日本はこれらの成功も失敗も含めて、次に来る第二波、第三波を想定しながら準備を進めなければならない。

世界ではいまだに指数関数的な感染者増加が続き、6月16日~22日の七日間で感染者が100万人以上増え、累計900万人に達した。その後も感染者は増え続け、7月15日時点で累計1300万人以上に及んでいる

世界の1日当たりの新規感染者数の推移

6月には主要国で経済活動を再開する動きが見られたが、世界の一日当たりの新規感染者数は増え続けている(図表)。

以前は感染者数トップ20の大部分が欧米諸国だったが、現在は新興国ブラジルを含む中南米、ロシア、インドを含む南アジア、中東の国々が加わった。

すべてのアフリカの国にも感染が広がり、新型コロナ以外の感染症対策が停滞、さらに都市封鎖により社会経済活動が破綻し、三重苦となっている。私が所属するグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)では、すでに90カ国以上で新型コロナ対策を開始している。

危機管理の基本は、最悪のシナリオを想定してそれに向けて準備することである。世界各国の状況を見ると、再流行の可能性は高い。1918~20年のスペイン・インフルエンザは終息するのに2年以上かかり、その間に三つの波、それも二番目の波で最も多くの死者が出た。今回も同様の覚悟と準備をしておくべきだろう。

かといって、ロックダウンなどの強硬策をずっと続けることはできない。もしそうすれば多くの国、いや世界の経済に壊滅的な打撃を与えるだろう。

感染爆発や医療崩壊で地獄を見た欧州も、最近は感染者・死者ともに激減している。レストランが開き、学校が始まり、国境が開放されるなど、段階的に規制が緩和された。

日本でも、5月25日に緊急事態宣言が全面解除された。タイミングとして遅かったとの意見もあるだろうが、中途半端なタイミングで解除すると、新型コロナは容易に再流行する。慎重で妥当な判断だったのではないだろうか。

今後重要となるのが、公衆衛生対策と社会経済対策とのバランスであろう。アメリカでは、新型コロナの影響で絶望的な状態に陥り、最大7万5000人が自殺やドラッグの過剰摂取などで命を落とす恐れがある、との推計が示されている。

日本でも、仮に感染の収束が1年だったとしても、向こう19年間で自殺者が累計約14万人増えるとの予測がある。コロナ禍による影響は、ウイルスによる直接死亡と、このような間接死亡の両方を考慮する必要がある。

現在は感染流行初期に比べて、「見えない敵」に関するデータが集まり、ウイルスの正体や闘い方が明らかになってきた。

満員電車に乗ってもマスクを着用し大声でしゃべらなければ、またレストランやバーであっても隣の席と2mの間隔をとり換気に気をつければ、感染リスクは低い。病院でも防護具の着用や手洗いなどの対策を着実に行なえば、医療従事者への感染は防げる。

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