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アトキンソン「コロナ禍で自然災害が起きれば、日本の財政は未曾有の危機に」

2020年07月09日 公開
2020年07月11日 更新

デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)

 

コロナ危機でも断行すべき最低賃金の引き上げ

――アトキンソンさんはかねてより、全国一律で年率5%の最低賃金引き上げを主張しています。コロナ禍においても、それは継続すべきでしょうか。

(アトキンソン)当然です。英国は企業からの反対を押し切って、今年4月1日に史上最高の6.2%の引き上げをしました。とくに、コロナ危機において最低賃金で働いているのは、感染リスクを抱えながらも最前線に立つ仕事の人が多いことを忘れてはなりません。

彼らの生活を支える賃金を底上げするのは当然の措置でしょう。英国ではスーパーや医療関係など、コロナ禍のもとで大変な社会貢献をしていることを反映して、引き上げが実行されました。

一方、日本商工会議所は政府に対して最低賃金引き上げの凍結を求めているようですが、言語道断です。

その理由ははっきりしています。最低賃金を適切に引き上げると、労働者は中堅企業と大企業に移動して、雇用は悪影響を受けませんが、小規模事業者の数が減ります。それによって、主に小規模事業者を中心として、会員数によって収入が決まる商工会議所は困ります。

そもそも最低賃金を引き上げるべき理由は、本誌(月刊『Voice』2019年9月号)でも述べたように、日本の生産性(1人当たりの付加価値=付加価値総額÷総人口)を向上させるためです。日本がこの先、人口増加による経済成長を見込めない以上、国民1人ひとりが生み出す価値を高める必要がある。

最低賃金で労働者を雇用する企業の多くは生産性の低い企業ですから、賃上げをすれば、生産性の確実な底上げが期待できる。

さらに、最低賃金で働いている人は消費性向が高いため、経済効果に直結しやすいことがわかっています。今後デフレが懸念されるため、需要喚起はますます大事になってきます。

――ただ、とりわけコロナ危機の状況下では、最低賃金の引き上げが企業経営を圧迫して雇用に悪影響を及ぼす恐れはないのでしょうか。

(アトキンソン)それはエビデンスに反する感情論ですね。海外での長年にわたる研究結果によると、適切に最低賃金を引き上げれば既存の雇用全体への悪影響は出ず、仮にあったとしても軽微である、と示されています。

たとえば英国では、1998年に最低賃金制度を導入し、その後20年間、段階的に2.2倍にまで引き上げました。その結果、生産性が1.7倍も改善しました。また失業率の上昇はみられず、実質賃金は向上した。

最低賃金で労働者を雇っていた企業における雇用の悪影響はみられず、むしろ人件費増加の対応策として生産性向上を試みたことが確認されています。失業率は大幅に低下しています。

第二次安倍政権以降、最低賃金が引き上げられている事実は評価すべきですが、いまだにその基準は都道府県ごとに設定されています。雇用調整助成金は全国一律なのに、最低賃金がそうなっていないのは矛盾している。早急に全国一律の賃上げへと舵を切るべきです。

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