2020年07月09日 公開
2020年07月11日 更新
――それでもやはり、賃上げの負担に耐えられない企業が出てくるかもしれません。「コロナ倒産」の余波も懸念されますが、いかがでしょう。
(アトキンソン)まず、倒産と休廃業の違いを認識しておく必要があります。倒産は、資金繰りの悪化等で事業の継続が困難になった状態で、裁判所に破産申請の申し立てを行ないます。
一方の休廃業は、あくまでも自主的に企業経営から身を退くことです。日本では倒産よりも休廃業の措置をとることが多く、両者の件数は別で計上されていることに注意しなければなりません。
それを踏まえて日本企業の趨勢を中長期的にみると、「倒産・休廃業する企業が増える=失業者が増える」という論理は成り立っていない点が重要です。きわめて短期的な数字は別として、じつは企業数と雇用者数には相関関係も因果関係もありません。
日本では1999年以降、倒産や休廃業により約124万社の企業が減っています。一方、その間に全体の就業者数は増えている。倒産・休廃業した企業のほとんどは社員数が一桁の小規模事業者であり、中堅以上の企業がなくなるよりは、全体の雇用者への影響がきわめて少ないからです。その労働者は中堅企業と大企業に移転しています。
――つまり、中長期的なトレンドと、日本の雇用者への影響を大局的にみる必要がある。
(アトキンソン)「中小企業が宝」という日本特有の価値観からいますぐにでも脱却すべきです。日本には小規模事業者が約305万社もありますが、その平均社員数は3.4人にすぎません。
企業の規模が小さいほど生産性は低くなり、イノベーションが生まれず、所得水準は低く、女性が活躍しにくい。昨今導入が推進されているテレワークも、規模の大きな企業ほど導入比率が高く、小さな企業ほど進んでいない。
日本が世界5位の国際競争力をもつ(世界経済フォーラム、2018年)にもかかわらず、生産性で28位に甘んじているのは、小規模事業者が多すぎるからにほかなりません。大半の小規模事業者は「日本の宝」ではないです。要するに、中小企業は数ばかりを重視するものではなくて、中身をもっと見るべきです。
私がこう指摘すると、「そうした小さな会社のなかにこそイノベーションを生み出す宝がある」という人もいるかもしれません。もちろん個々の事例でいえば、優秀な企業は存在するでしょう。それは否定しません。
しかし全体の付加価値から判断すると、そうした小規模事業者はほんの一部で、ほとんどは生産性を高められていない。例外を一般化してはいけません。
さらに、スペインやイタリアのように、小さな企業の数が多い国ほど財政基盤が脆弱な傾向にあります。深刻な人口減少に直面する日本が本当に生まれ変わりたいのならば、小規模事業者に偏った産業構造そのものを見直さなければなりません。
更新:11月22日 00:05