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新型コロナ、米国の指導力の穴を狙う中国の「マスク外交」

2020年05月11日 公開

詫摩佳代(東京都立大学法学政治学研究科教授)

リベラルな国際秩序の担い手たる日本

いまや世界一の新型コロナ感染者数を抱えるアメリカは当面のあいだ、自国の状況回復に精一杯で、そのリーダーシップを期待することはできない。

しかしそれを以て悲観するのは早い。世界には200近くの国が存在する。アジアには比較的状況が芳しい国も存在する。

それらの国が連携して、世界的な流行の終息においても、また世界経済の回復においても尽力することができるなら、大国のリーダーシップに勝るとも劣らない力になりうる。

その際、日本は大きな潜在力を秘めている。戦前、国際協調から外れることを選び、辛酸を嘗めた日本は、戦後のリベラルな国際秩序の担い手として重要な役割を果たしてきた。

国際協調の趨勢が遠のきつつある現在においても、感染の抑制や医薬品の開発等において、国際機関や他国との連携姿勢を維持している。

3月下旬以降、日中韓外相会合や日中韓ASEAN首脳会合に参加し、各国と共に事態の収束に向けて、また治療薬の早期開発等に関しても緊密に連携していくことを確認した。

4月16日に開催されたG7首脳会合でも独仏らの首脳と共に、新型コロナウイルスへの対応には国際連携が欠かせないこと、WHOを全面的に支持する方向性を確認した。

これらの国々が中心となって、コロナの終息や治療法・ワクチンの開発、途上国への支援を継続・強化するならば、アメリカ不在の埋め合わせをすることは十分可能であろう。

その連携はコロナ終息という短期的な目標に対してのみならず、WHOの機能を改善し、各国の感染症対応能力を向上させ、アメリカを国際協調に復帰させ、次なるパンデミックに備えるという中・長期的な目標においても不可欠なものとなろう。

日本にはその資金力と高い技術力、国民皆保険を成し遂げた経験を活かして、コロナの終息のみならず、その後に控える中・長期的な目標に対しても、各国との連携を保ちつつ役割を果たしていくことが求められる。

国際社会の責任ある一員としての手腕がいま、問われている。

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