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新型コロナ、米国の指導力の穴を狙う中国の「マスク外交」

2020年05月11日 公開

詫摩佳代(東京都立大学法学政治学研究科教授)

国際連携よりほかに道はない

アメリカがリーダーシップを発揮できないなか、主導力を発揮しようと意欲を見せるのが中国である。

中国はヨーロッパや中東の国々に対していわゆる「マスク外交」を展開しているが、アメリカに代わりうるような主導力を発揮できるかは未知数である。

実際、「マスク外交」に隠された政治的野心を警戒する声も根強く、また提供物資の品質に問題があることもたびたび指摘されている。

保健協力において主導力を発揮するには、当該国に対する他国の信頼が不可欠であり、「マスク外交」が中国の主導力に結び付くか否かは予断を許さない。

リーダーシップや連携が欠如するなかで、われわれはどのようにして新型コロナウイルスを終息へと導けばよいのだろうか。

国家ごとに分断された対応を続ければ、たとえ自国内で感染を抑えられたとしても、他地域での感染が再び自国に第二、第三の波をもたらす可能性は高い。

WHOを機能させようという政治的意図が欠如したままであれば、当組織の下で展開されてきた国際的なワクチン等医薬品の共同開発や供給の調整等にも支障が出るだろう。

流行の終息には長い時間がかかり、その間に世界経済は疲弊してしまう。世界大恐慌が世界大戦を招いたように、国際社会が最悪のシナリオに向かう可能性も否定できない。

これを避けるためには、国家間連携よりほかに道はない。戦後、長い時間をかけて、国際社会では国家間の経済的・社会的相互依存を深めてきたが、その過程で築かれた枠組みが、危機への対処にあたって機能することを願うばかりである。

対立が深まる米中関係についても、相互依存関係はすでに両国の経済・社会基盤に埋め込まれており、相手への敵対心と、感染症の終息と経済の回復において相手国と協力せねばならない必要性に、どこかで折り合いをつけねばならないだろう。

結局、歴史が証明するように、国境を越える感染症を終息させ、世界経済を回復するには互いに情報や経験を共有し合い、ワクチン等医薬品の開発に力を合わせ、自国のみならず世界の感染を終息させるよう連携するしかないのだ。

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