2020年03月27日 公開
2020年03月31日 更新
今年行なわれる米大統領選、各種メディアはトランプ大統領の再選が「確実」であるかのような報道を行なっているが、パシフィック・アライアンス総研所長の渡瀬裕哉氏は別の見方を示す。新型コロナウイルスも大統領選に影響を及ぼす。トランプ大統領にとっての本当の「脅威」は何か。
本稿は月刊誌『Voice』2020年4月号、渡瀬裕哉氏の「トランプ再選は『確実』ではない」より一部抜粋・編集したものです。
2020年は米国大統領選挙の年である。日本のメディアは「トランプ再選」が決まっているかの如く報道しているが、はたしてその見通しは正しいのだろうか。
たしかに、筆者の米国保守派の友人らもトランプ大統領の勝利を確信している人間が多い。
そして、彼らの認識では大統領選挙と同時に行なわれる上下両院連邦議会議員選挙でも共和党が多数派を形成するとの見通しも共通している。筆者もこのような見通しが事実となれば、米国と日本のためにも良いことだと確信している。
しかし、実際には、2016年のヒラリー勝利確実の報道がフェイクであったように、2020年の選挙環境もトランプ勝利が確定しているとは言い難い。
筆者が2016年時にトランプ勝利の可能性を予測した際、選挙に関する重要な数字はヒラリー勝利を断言できる状況ではなかった。そしてじつは、今回のトランプ大統領の再選分析についても同じことがいえる。
トランプ大統領の全米支持率調査の数字は、好調な経済とは裏腹に40%前後で推移している。そして、大統領選挙の勝敗を決する接戦州の世論調査において、少なくとも中西部のラストベルト(さびついた工業地帯)についても良好な数字が出ていない。
一部を除くラストベルト諸州の世論調査は、トランプ大統領が民主党予備選挙候補者に僅差で負けているものが大半だ。トランプ大統領の逆転勝利を演出したラストベルトには、依然として民主党の強固な壁が存在し続けている。
また、本来は共和党地盤である南部のサンベルトにおいても、いくつかの州の数字はじつは民主党側と競っている状態となっている。
サンベルトの選挙情勢は、人種構成、リベラル系人口流入、関税政策に対する嫌気などを反映し、トランプ大統領はアリゾナ州やフロリダ州などのつねに接戦が見込まれる州だけでなく、テキサス州やジョージア州のような共和党の金城湯池でも民主党側から激しい突き上げにあっている。
つまり、2020年の米大統領選挙において、トランプ陣営は、ラストベルトは攻め、サンベルトは守り、という二正面作戦を強いられている状況だ。選挙の戦略上、ラストベルト重視の2016年の環境よりも、利害が異なる二地域を見据えた戦いを必要とする2020年の環境は難易度が高いといえるだろう。
トランプ再選の根拠として「良好な経済環境・雇用環境」を論拠とする向きも多い。実際、トランプ大統領は自らの演説において、調子が良い株価と雇用について積極的に触れている。
とくにトランプ陣営がターゲットにしている層は、ヒスパニックやアフリカ系などのマイノリティである。それらのマイノリティの失業率は史上最も低い水準にあり、トランプ陣営は潜在的な支持層として同層の取り込みに躍起になっている。
トランプ大統領がヒスパニック40~50%弱、アフリカ系の20%弱からの票を獲得できる見込みが立った場合、再選見通しは堅固なものとなるだろう。
ただし、現状ではヒスパニック系からは相対的に支持を獲得しつつあるが、アフリカ系の動きは好ましいものとなっていない。トランプ陣営があの手この手で働きかけても、アフリカ系のトランプ大統領への反感は簡単には消えない傷として残っているようだ。
トランプ陣営がマイノリティの山を動かすことができるかは注目に値するが、そもそも前述のトランプ大統領の支持率も良好な経済環境・雇用環境をすでに織り込んだものと認識するほうが妥当だろう。
そのように考えると、新型コロナウイルスなどのイレギュラーな経済脅威も再選に向けた大きなリスクといえる。
トランプ大統領の経済政策の効果もあり、昨年心配されていた米国経済の失速懸念は払拭されてきたものの、新型コロナウイルスによる中国経済の減退は米国にも影響し、米国民の雇用に対して深刻な被害をもたらす可能性がある。
これはトランプ大統領のせいではないものの、同大統領の政治的な勢いを削ぐ可能性もなくはない。トランプ大統領の再選見通しは、じつは喧伝されているほど強固なものではなく、民主党候補者に対して圧倒的な優位に立っているとは言い難いものとして捉えるべきだろう。
更新:11月22日 00:05