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「手鼻、タン吐き、立ち小便」新型コロナの土壌となった中国の衛生意識

2020年03月06日 公開
2023年04月17日 更新

高口康太(ジャーナリスト),西谷格(ノンフィクションライター)

なぜ日本でキャッシュレスが根付かないのか

【高口】 中国のデジタル化が話題になると、往々にして「日本ではなぜキャッシュレスが根付かないのか」と議論になります。

誤解されがちですが、中国がうまくいった大きな要因の一つは、単純に「金をバラまいた」から。アリペイが黎明期にキャッシュバックキャンペーンと銘打ち、年間何百億円も投資したのは有名な話です。

あと、春節(中国の旧正月)の時期になると、1年間で最大のデジタルキャンペーンが行なわれます。

この時期はみんな家に籠るのでやることがなく、新しいアプリをインストールするタイミングだからです。祖父母が帰省した孫たちに使い方を教わるケースも多いと聞きます。

今年の中国版紅白歌合戦「春晩」の公式パートナーは、「快手」という「TikTok」のライバル企業でした。視聴者参加型の動画投稿キャンペーンで、総額300億円プレゼントという椀飯振る舞い。

かつて、アリババ系のショッピングサイト「タオバオ」が「春晩」のパートナーになったときは、当選者に、タオバオのショッピングカートに入れた商品がすべて無料になるキャンペーンをやっていました。

いわば、「札束でひっぱたいて」サービスを根付かせる手法です。ユーザーも使い心地に慣れてくれば、次から次に新しいサービスを使っていきます。

【西谷】 日本でも昨年の消費増税に伴い、「PayPay」などで還元サービスが行なわれましたが、スケールが違うの一言ですね。

一方、シェアリングサービスは中国でも各社苦戦し、身を切りながら事業を継続している企業が目立ちます。

【高口】 先ほど話に出たライドシェア大手の「滴滴」は、創設以来一度も黒字になっていません。投資家から集めたお金をすり減らしながら事業を続けているのです。

流行りのフードデリバリーにしても、アリババが業界トップの「美団」に割引攻勢を仕掛けて追随しています。

採算度外視の割引合戦が繰り広げられ、「外食するよりデリバリーするほうが安い」こともしばしば。競争の「おこぼれ」を拾っているのが一般市民です。

【西谷】 デジタル技術の新サービスは世の中を便利にしますが、一方で、ユーザーは自分の習慣や行動を多少なりとも変えないといけない。高齢者が初めてスマホをもつときを想像してもらえばわかりやすいですが、これはものすごい負担です。

「札束攻勢」がベストかはさておき、目に見えて得と思える強い動機がないと、デジタルサービスは遍く広く普及しません。企業側が「使えば良さがわかります!」と主張するだけでは、ユーザーにはまず響かないでしょう。

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