2020年01月29日 公開
2023年04月17日 更新
続いて寄ったのは、都内の家電量販店。店舗入り口にはすでに大量の中国人観光客がタムロしており、思い切り歩道にあふれて通行の妨げとなっている。
「はい、下がってください、下がってくださあああああい!」
若い男性警備員の声には、日本人相手の時には決して聞かれないような、強い怒気が含まれていた。顔面が引きつっており、もう手に負えないという悲鳴のようですらある。何度注意しても同じことの繰り返しで、ウンザリしているのだろう。いい加減、根本的な対策が必要かもしれない。
中国人観光客と一緒に日本の街を歩いていると、まるで遊園地やテーマパークを散策しているような気分になる。見るものすべてが珍しく、そこに住む日本の人々は、異郷の夢の国の住人に過ぎない。軽く現実感を失っているのだ。
そうなると、通路を塞いだりリュックサックがぶつかったりすることには、母国にいる時以上に鈍感になる。
一行を店内に案内して集合時間を告げると、張さんはすぐに地下のガイド専用の休憩室に移動した。喫煙所に入ってフーッと紫煙を吐きながら、張さんはこんなことを言い始めた。
「この仕事はとにかく、客をいかに洗脳するかなんですヨ」
洗脳、という言葉に驚いたが、言わんとすることは理解できた。
「例えばこの磁気ネックレス、中国のガイドはみんなこれ使っているんですよ。1本3万円ぐらいですが、ガイドなら1万円ちょっとで買える。で、お客さんが1本買うと9000円バックがもらえる。『私も使っていてすごく効きますよー』といえば、みんな買っちゃうんですよ」
そう言って、ニヤリとしながらシャツの襟の間から銀色の金属の輪をつまんで見せた。張さんの知り合いの中には、この磁気ネックレスの販売に特化したガイドを行い、一財産築いた者もいるという。確かに、20人が買えば1日で20万円近いバックが入るのだから、儲けは大きい。
「とにかく、こちらの言っていることを信じさせる。これが大事なんです」
更新:11月22日 00:05