日本は「正義と世論形成を争奪する戦争」に後れを取ってしまったのか? 情報が瞬時にインターネットで拡散され、真偽を確認する前に国際世論が形成され、政策決定に影響を与える世界の現状において、日本は国家としてのアイデンティティを確立できているのか?
学習院女子大学の石澤靖治教授の自著『アメリカ 情報・文化支配の終焉』より、日本外交は世界の中でどのように自画像を描いてきたか、これから世界に向けてどのようなスタンスを取るべきなのか提言する。
※本稿は石澤靖治著『アメリカ 情報・文化支配の終焉』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです
戦後日本は、アメリカの民主主義、自由などの価値をなぞり、基本的にはそれに従ってきた。外交方針も日米安全保障条約のもと、完全にアメリカと歩調を合わせてきた。
たしかにアメリカは人種構成においても考え方においても多様性に富む国であり、世界のなかで相対的に最もユニバーサルな国家だと言える。したがって、そこから学ぶものも見習うべきものも多い。
しかしその一方で、理想主義を掲げながらも、自国の国益を最優先して強引な現実主義をむき出しにしてきた。そんなアメリカに対して、日本はしばしば批判や戸惑いも経験してきた。
最も顕著だったのは、1980年代後半から1990年ごろにかけて日米貿易摩擦が頂点を迎えたときである。アメリカ側は日本に対して強烈な敵視と強引な市場開放要求を行い、米議会と米メディアは日本と日本人を邪悪な存在であるかのように扱った。
それは日本のバブル崩壊でアメリカを脅かす存在ではなくなったことで収まった。だが、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権の誕生は、再び彼らのいう「自由」「民主主義」「人権」に対して不審を抱かせる状況を生み出してきている。
トランプ当選直後に首相の安倍晋三が、トランプと個人的に親密な関係を打ち立てたことで、日米関係自体は安定している。だが、日本が金科玉条として信奉してきた「アメリカ的価値」に対する信頼は、大きく揺らいでいる。
これまでアメリカの言う「自由」「民主主義」「人権」を漠然と受け入れてきた日本が、自分たちの文化を踏まえたうえで、どのようなかたちの価値を追求していくのか。そして、それを世界にどのように示していくのか。自らが考え、答えを出す時期に来ている。
一方で、日本のソフト・パワーへの評価と、これまで地道な外交努力を続けてきた成果として、東南アジア、インド、オセアニアなどとは良好な関係が成立している。
欧州とも大きな懸案はない。これらの国や地域には、これまで行ってきた日本のパブリック・ディプロマシーをさらに拡大して展開していけばいい。
もちろん、その際には資金的な手当ても必要だし、日本語学校について共通ブランドをつくるなど、戦略性を明確にすることも大事だ。英語による情報発信も大きく増やさなければならない。
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更新:12月02日 00:05