Voice » 経済・経営 » 「日本のバブル期そっくり」だった中国の銀行 本当に“健全”なのか?

「日本のバブル期そっくり」だった中国の銀行 本当に“健全”なのか?

2019年12月18日 公開
2022年03月10日 更新

柴田聡(金融庁総合政策局総務課長兼中国カントリーディレクター)

中国金融の健全性は?

2016年に世界最大となった中国の銀行市場。シャドーバンキングの資産規模は約900兆円、超富裕層の資産は2300兆円、日本の約1.3倍だという。個人間決済ではフィンテックの伸長著しく、キャッシュレス化率では日本を大きく引き離している。

急成長を遂げる中国メガ市場において、日本はどのようにその「果実」を享受すべきか。金融庁総合政策局総務課長で中国カントリーディレクターの柴田聡氏は、中国金融を把握するためには「リスクも正しく認識する必要がある」と述べる。

本稿では岩田聡氏の著書『中国金融の実力と日本の戦略』より、中国の金融システムの健全性を詳細に分析した一節をここで紹介する。

※本書は柴田聡著『中国金融の実力と日本の戦略』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです

 

指標が示す中国の銀行の「健全性」

中国の金融システムは本当に健全なのだろうか。これについてはさまざまな見方がある。

中国の商業銀行の不良債権比率は、2010年代に入ってから一貫して1%台という非常に低い数字で推移している。

日本の主要行は、不良債権問題が最も深刻化した2002年3月期の不良債権比率が8.4%であり、その「半減」が政策目標とされ、2006年以降は1%台で推移してきている。中国の不良債権比率は、最近の日本の主要行並みの数字である。

2014年からは、要注意債権の公表も開始されており、不良債権と要注意債権の合計比率は2016年に6%近くに達したが、その後ピークアウトして、2018年には5%以下まで低下している。数字を見るかぎり、銀行システムに大きな異常があるとは思えない水準だ。

また、世界金融危機の反省を受けて、2017年に策定された国際銀行規制、いわゆる「バーゼルⅢ」を中国はいち早く導入した。しかも、自己資本比率については国際基準よりも高い水準設定を行った。

たとえばG-SIBs(グローバルなシステム上重要と認定された銀行)の4行に対しては、バーゼルⅢ基準(10.5%)を上回る11.5%以上の自己資本比率を求めている。

バーゼル銀行監督委員会においても、中国の取り組み状況は「準拠」(compliant)とされ、商業銀行全体の自己資本比率も13%を超える水準で安定的に推移している。

つまり、不良債権比率や自己資本比率といった、金融システムの体温計のような基礎指標を見るかぎり、中国の銀行システムは健全な水準を維持しているように見える。

次のページ
消えぬ疑念「潜在的な不良債権が多いのでは?」 >

Voice 購入

2024年12月

Voice 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):880円

関連記事

編集部のおすすめ

「気づいた時にはもう遅い」大投資家ジム・ロジャーズが予見する金融危機

ジム・ロジャーズ(訳:大野和基)

“高学歴な人”ほど左派政党を支持する「先進国の現実」

吉松崇(経済金融アナリスト)