2019年11月16日 公開
2024年12月16日 更新
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2016年の国民投票でEUからの離脱を決めながら、いまだに退出のかたちを決められず、混沌が続く英国。その対応を巡って混迷をきわめるEUを高笑いで眺めているだろう人物がいる。14 年のクリミア侵攻以来、欧州各国から制裁を科せられているロシアのプーチン大統領である。
英ガーディアン紙や英タイムズ紙によると、16 年の国民投票でロシアが離脱へと情報操作した疑惑が濃厚とされる。欧州に混乱を巻き起こしたロシアの謀略とは──。
※本稿は、岡部伸著『イギリスの失敗』(PHP新書)より、一部抜粋・編集したものです。
英エディンバラ大研究チームの調査結果によると、ロシアのサンクトペテルブルグにあるSNS情報工作拠点「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)社」が419 以上の偽アカウントを作成、3500回も離脱を支持する投稿を繰り返した。
アカウントのうち一つは17 年3月、国会議事堂に近いウエストミンスター橋で車が通行人をはねたテロ事件にからみ、反イスラム感情を煽あおった。
また英スウォンジー大学と米カリフォルニア大学バークレー校の研究者の調査では、国民投票前数日間にロシアと関連がある3万以上のアカウントから約4万5000のメッセージが投稿され、ほとんどが離脱投票の呼びかけだった。英メディアは、米大統領選と同様にロシアが自動発信システムの「ボット」と呼ばれるスパムを使用してツイッターで選挙妨害したと報じている。
さらにメイ前首相率いる保守党が過半数を失った17年6月の総選挙でもロシアの介入があった。デイリー・テレグラフ紙によると、SNSを通じて「ボット」によって作られた架空の偽アカウントから、ツイッターでメイ氏を批判したり、労働党を礼賛したりする毎日1000のメッセージが発信され、労働党が急速に支持を広げた。
ロシアの不正介入で、英国はEU離脱を巡る国民投票で社会が分断され、総選挙で惨敗したメイ政権は弱体化した。現在、ジョンソン首相が離脱交渉の指揮をとるが、12月に行なれる総選挙で保守党が敗れるようなことがあれば、労働党への政権交代が起きて、再度の国民投票が実施され、離脱交渉は振り出しに戻るかもしれない。
EUを牽引してきた英仏の不協和音に端を発した欧州の弱体化こそ、ロシアの意図するところだ。米中が新冷戦に突入する中で、ロシアの覇権を取り戻したいプーチン大統領が、欧州の分断を煽っている。欧州の結束が崩れる混乱に乗じて、クリミア侵攻を巡る対露制裁に対する包囲網を突き崩す狙いだろう。
更新:12月27日 00:05