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『涼宮ハルヒの憂鬱』に見える、京アニ作品の“こだわり”

2019年09月19日 公開
2019年09月19日 更新

伊藤弘了(映画研究者)

文化史的喪失と一筋の光明

伊藤弘了事件現場近くの献花台

 

午前9時には六地蔵駅に降り立ったものの、肝心の花束を持たずに来てしまった私は、近くの大型スーパーの開店を待つあいだ、付近を散策して過ごした。

第1スタジオや献花台の周辺には、外国人と思しきファンの姿も見受けられた。以前『リズと青い鳥』(山田尚子監督、2018年)の作品論(※6)を書いた際、拙論が韓国や中国(有志の方が翻訳してくれた)の京アニファンにまで届いたことに驚いた。

それはもちろん、私の文章の力ではなく、京アニ作品がグローバルに支持されていることの素朴な反映にほかならない。

今回の事件は、被害者の身元公表や支援のあり方をめぐっても議論を呼んでいるが(政府は8月22日に、京アニに対する寄付を災害義援金と同じく「地方公共団体への寄付金」扱いにする方向で検討していると発表した)、これを契機として制度の整備が進むとすれば、せめてもの救いにはなるだろう(もちろん、失われたものはあまりに大きく、まったく割に合わないことはいうまでもない)。

何ものにも代えがたい人命の損失に加えて、第1スタジオ内にあった過去の資料や新作の原画が消失したことも痛惜に堪えない。それはたんに同社の経済的損失というだけでなく、日本のアニメーション(文化)史にとって一級の資料/史料の喪失を意味する。

そのようななかで、第1スタジオ内にあったサーバーからデジタル化されていた原画データを欠損なく回収できたというニュースには、一筋の光明が差している。今後、資料のアーカイヴィングに関する議論も進めていく必要があるだろう。

9月6日には、新作映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ―永遠と自動手記人形―』の公開が予定されている(9月26日までの3週間限定上映)。

新宿ピカデリーやMOVIX京都では、8月23日から過去の京アニ作品の特集上映を行なっている。京都文化博物館でも、9月以降に京アニ作品の上映を予定しているという。以前からのファンはもちろん、これまで見たことがない人のあいだにも、京アニ作品の魅力が広まる機会となるはずだ。

犠牲になられた方に謹んで哀悼の意を表するとともに、負傷された方の一日も早い回復を祈っている。残された方々の心痛を前にしては、いかなる言葉も空疎に響いてしまうだろう。どうか平穏な日常を取り戻せる日が来ますように。〈文中、敬称略〉

※6、伊藤弘了「彼女がフグを愛でる理由――映画『リズと青い鳥』における脚の表象と鳥かごの主題系」、『エクリヲ』Web(http://ecrito.fever.jp/20180925221427

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