出町桝形商店街(京都市上京区)のポスター展示(筆者撮影、以下同)
35人が犠牲になった京都アニメーション放火事件。日本を代表するアニメ制作会社を襲ったあまりに理不尽な出来事に、世界中が衝撃を受けた。国内外で支援の動きが広がるなか、京都在住の映画研究者である伊藤弘了氏は、京アニ支援の動きが全国的に広まった背景には、作品と馴染みの深い「聖地巡礼」の文化がある、と指摘する。
※本稿は月刊誌『Voice』(2019年10月号)、伊藤弘了氏の「京アニ放火事件を悼む」より一部抜粋、編集したものです。
京アニ支援のための募金箱を設置する動きは全国的に広まった。背景には京アニ作品と馴染みの深い「聖地巡礼」の文化がある。
「聖地巡礼」という言葉は、宗教的な行為を指す本来の意味から派生して、アニメーション作品の舞台となった場所(「聖地」)をファンが実際に訪れる(巡礼する)行為を指すようになった。
記録的なヒットを飛ばした映画『君の名は。』(新海誠監督、2016年)の「聖地巡礼」が話題になったことで社会的な認知を得たが(同年の流行語の1つとなった)、それ以前から京アニ作品と「聖地巡礼」の相性のよさは注目されていた。
京アニ作品は、見る者に「聖地巡礼」を促すような特徴を備えていたのだ。それでは、その特徴とは何か?
ポピュラー文化に造詣の深い批評家の石岡良治は、京アニ作品の特徴として「必ずしも名所とは言えない現実の風景が舞台になっていることが、明確にわかるぐらい写実的な背景描写」(※1)を挙げている。
「キャラクターと実在の背景がアニメ上で組み合わさることで、視聴者たちの「この背景のモデルとなっている場所に行きたい」という欲望を生み出し、一連の「アニメ聖地巡礼ブーム」(※2)を巻き起こしたというわけである。
更新:11月23日 00:05