2019年09月19日 公開
2019年09月19日 更新
「エンドレスエイト」は、夏休みを終わらせたくないと願ったハルヒ(CV:平野綾)の無意識の力によって、世界が8月17日から31日のあいだを1万5000回以上にわたって繰り返してしまう話である(ハルヒは自身の能力を自覚しておらず、繰り返しにも気付いていない)。
それに気付いた主人公たちが、ハルヒがやり残したと思っていることを探り当て、ループを終わらせようと奮闘する。
原作小説(谷川流『涼宮ハルヒの暴走』[角川スニーカー文庫、2004年]所収)では、ループの解消に成功する1万5498回目のシークエンスのみが描かれているが、アニメはこのエピソードを8話にわたって放送した。
1話目では主人公たちはループに気付かず、普通に夏休みを終える(そして8月17日に戻ってしまう)。2話目でループに気付いたときのシークエンスが、原作の解決篇に当たる1万5498回目となっており、多くの視聴者はこの放送分をもって「エンドレスエイト」が終了すると考えたことだろう。
ところが、実際にはそうならなかった。「エンドレスエイト」はその後もさらに6週にわたって放送され続けたのである(解決篇のシークエンスは1万5532回目に当たる)。
ほぼ同じ話を8回にわたって見せられた視聴者たちからは不満の声が噴出した。ループに気付かない初回と解決を迎える8話目はともかく、途中の6回分は(微小な差異を含むとはいえ)ほぼ同じ展開なのだから、もっともな反応ではある。
しかしながら、京アニは同じ映像を使い回すようなことはしなかった。それどころか、絵コンテ・演出・作画監督に(1話目と8話目を除いて)毎回別のスタッフを配し、同じセリフであっても毎回アフレコを行なうなど、それぞれを独立した話として、同時並行的につくっていたのである(したがって、各話の微妙な差異を探しながら見るという楽しみ方も可能だ)。
多くのファンを苛立たせた一方で、この実験的な取り組みを高く評価する向きもある。視聴者は作中のキャラクターたちが繰り返した終わりなき夏休みを、いわば擬似的に追体験することができた。
視聴者が感じた倦怠や苛立ち、怒りの感情は、そのまま作中人物たちの感情と重なり合う。とりわけ、長門有希のそれと。
というのは、作中ではループのたびごとにそれ以前のシークエンスの記憶がリセットされることになっており、時間と空間を超越した存在である長門だけがそのすべてを記憶しているからである。
15日間を1万5532回繰り返したとすれば、合計で23万2980日、つまり彼女は約638年をかけて同じ2週間を過ごしたことになる(※5)。
この設定は、アニメ二期の放送後に製作された劇場版『涼宮ハルヒの消失』(石原立也総監督、武本康弘監督、2010年)に向けた壮大な伏線としても機能している。
エラーデータを蓄積した長門が、ある致命的な行動を取ったことで『消失』の物語が展開していくのである。
8週にわたる繰り返しで悲鳴をあげたファンにしてみれば、600年以上付き合わされた長門の苦労は想像を絶するものであり、完全無欠に思える彼女がバグを発生させたのも納得できるだろう。
映画は興行収入8億円を超える大ヒットを記録した。これは深夜帯アニメの劇場版としては当時、歴代最高の数字である(のちに京アニ自身が『けいおん!』[興収19億円]によって大幅に塗り替えた)。
※5、この長門の視点に注目し、分析哲学の手法を取り入れながら「エンドレスエイト」の緻密な再解釈を行なったものとして三浦俊彦『エンドレスエイトの驚愕 ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社、2018年)がある。
更新:11月22日 00:05