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朝井リョウ 「人間の負の部分を描いているときにこそ気持ちが高ぶる」

2019年07月16日 公開
2019年07月16日 更新

朝井リョウ(小説家)

潔白を過剰に求める風潮

――作中、テレビ制作会社の中年ディレクターで、昔は抱いていた仕事のやりがいを見失いつつある弓削晃久は、主な登場人物のなかで唯一、若者ではありませんね。

【朝井】 じつは弓削のパートを描いているときが、いちばん筆が走りました。優秀な後輩が台頭するなかで自分は結果が残せないけれど、オフィスに居続けなければならない。多様性と言いながら結局誰もが自分を何かと比べてくる。

弓削がカルト的なものに身を預けかける瞬間などは、自然に言葉が出てきました。彼は最終的にある事件を起こしてしまうのですが、それは私の明日の姿でもまったくおかしくない。

人間は喜怒哀楽の感情のなかで、怒りや哀しさにその人らしさが表れる気がします。マイナスなエピソードを話しているときのほうが、言葉が具体的で感情が乗ってくる。

私自身、人間の負の部分を描いているときにこそ気持ちが高ぶるし、言葉の幅も広がるように思います。

――本作で描写されているように、平成に登場したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)によって、誰もが自らの感情を発信、共有できる時代になりました。

【朝井】 とくに最近はツイッターを中心に、潔白を過剰に求める風潮を感じています。私は、人間は間違いを犯す者だという大前提をもっていて、自分もその枠からは逃れられない、と考えています。

生きる上で周囲との摩擦や軋轢は付き物で、時に差別的な感情をもってしまうこともある。誰の心の動きも、制御しようがありません。

その気持ちを言葉にしたり行動に起こしたりすることはいけないけれど、最近は、心の動きすら制御されてしまうのでは、と恐怖を感じています。

今回は承認欲求を超えた生存欲求をテーマにしましたが、秋に出版する新作では、潔白さや正しさから外れた心の動きを丹念に書きたいと思っています。

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