中国の「積極防衛戦略」の進展に伴い、より沖合の敵艦艇を攻撃する必要性に応えるため中国技術陣が開発したのが、シルクワームファミリーの射程距離を倍増させた鷹撃(ようげき)62(C-602)地対艦ミサイルである。
シルクワーム型のものよりも搭載爆薬重量は軽量化されたが、マッハ0.8のスピードで射程距離280〜290㎞を飛翔する。鷹撃62の改良型である鷹撃62-Aも誕生し、飛翔距離は400㎞といわれている。
これらの地対艦ミサイルはロケットエンジンやジェットエンジンで飛翔する巡航ミサイルであるが、中国はより遠距離の敵艦を破壊するための対艦弾道ミサイルの開発に努力を傾注してきた。
2013年ごろから、東風(とうふう)21型中距離弾道ミサイル(日本攻撃用の弾道ミサイル)を母体にして開発された東風21D型(DF-21D)と呼ばれる対艦弾道ミサイルが姿を現す日が間近いと見られていた。そして、2015年9月に行われた対日戦争勝利七十周年記念軍事パレードにDF-21D対艦弾道ミサイルが登場した。
人民解放軍の発表や米軍情報機関の分析などによると、DF-21Dの最大射程は1600〜2700㎞であり、数個のレーダー衛星、光学監視衛星、それに超水平線レーダーなどからの情報によって制御されつつマッハ10(マッハ5という分析もある)で飛翔し、多弾頭(一つのミサイルに装着されている弾頭内部にいくつかの弾頭やおとり弾頭が仕込まれてい
て、それぞれが制御されながら目標を攻撃する)が空母などの艦艇に向けて超高速で落下する。目標の艦艇は、30ノット(時速56㎞)の速度で航行していても命中可能とされている。
DF-21Dは、主としてアメリカ海軍の巨大原子力空母を攻撃目標として開発されたが、命中精度を向上させて空母だけでなく、米海軍の大型艦から中型艦、たとえばイージス駆逐艦までをも攻撃するために開発されたのが、東風26型弾道ミサイル(DF-26)である。
DF-26は最大射程距離が3000㎞以上(あるいは4000㎞以上)といわれており、艦艇だけでなく、地上建造物などのような静止目標に対する攻撃も可能なため、アメリカ軍ではグアムの米軍攻撃用と考え「グアム・キラー」あるいは「グアム・エクスプレス」などと呼んでいる。
その長い射程距離のため、DF-26対艦弾道ミサイルは西太平洋などの外洋を航行するアメリカ軍艦を攻撃するイメージを持たれていたが、中国沿岸域からはるか内陸のアメリカ軍の攻撃を受ける恐れが低い地域から発射して、南シナ海や東シナ海の中国近海に侵攻してきたアメリカ軍艦(それに自衛隊艦艇をはじめとするアメリカ同盟軍艦艇)を撃破する、という用い方も想定可能である。
DF-21DにせよDF-26にせよ、対艦弾道ミサイルがアメリカ海軍原子力航空母艦のような巨大艦に向けて発射された場合、一発目の命中弾によって航行不能に陥らせ、二発目の命中弾によって撃沈することになるとされている。
中国内陸奥地のゴビ砂漠で実射テストが繰り返されている、といわれているが、実際に海上を航行する艦船をターゲットにした試験は行われていない。
いずれにせよ、中国側の宣伝情報が真実に近ければ、対艦弾道ミサイルはイージスシステム搭載艦でも迎撃はきわめて困難となり、史上最強の地対艦ミサイルということになる。
対艦弾道ミサイルの主たる攻撃目標は、西太平洋や東シナ海を中国に向けて接近してくるアメリカ海軍空母とされているが、米海兵隊を搭載する強襲揚陸艦や、海上自衛隊の大型艦であるヘリコプター空母も格好の標的となる。
しかしながら奇妙なことに、日本ではDF-21DやDF-26の脅威はほとんど取り上げられておらず、見掛け倒しのハッタリといった評価が幅を利かせている。
しかし、アメリカ海軍関係者たちは中国対艦弾道ミサイルの完成をきわめて深刻に受け止めており、日本側での受け止め方とは好対象をなしている。
更新:11月22日 00:05