2019年04月01日 公開
2022年06月09日 更新
このような視点から、ある出来事を考えてみたい。
2年越しの紆余曲折を経て、2018年10月30日に最終合意に達した福岡県のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と長崎県の十八銀行による経営統合である。
すでに長崎県の地域銀行では、親和銀行がFFGの傘下に入っており、これに十八銀行まで加わると、長崎県内の同グループのシェアは独禁法が禁止している独占に近い水準まで高まってしまう。
そこで、2016年にこの経営統合が具体化した際、公正取引委員会は経営統合の承認を棚上げしてしまった。それから2年間にわたって、紆余曲折が演じられたのがこの経営統合劇だった。
経営統合に「待った」をかけた公正取引委員会に対して、金融庁は人口減が著しい地域では、地域銀行の経営統合は例外扱いにすべきであると主張し、一時は、当事者銀行VS.公正取引委員会というよりも、金融庁VS. 公正取引委員会という前例のない対立構造にも発展した。
その後、十八銀行とFFGは、長崎県内の貸出債権を総額で1000億円弱も圧縮し、地域シェアを約75%から65%に引き下げるという条件の下に、公正取引委員会は経営統合を承認するということで決着をみている。
一定幅で地域シェアを引き下げることが承認の条件だったとしても、とにかく、地域銀行に独禁法上の例外措置が導入されただけではなく、公正取引委員会との攻防を当事者である銀行ではなく、監督官庁の金融庁が担ったという構図まで含めて異例ずくめの出来事だった。
さらに、政府は地域サービスの存続に向けて、地域シェアが高くなったとしても地域銀行などの経営統合を認めやすくするための新たな法律を導入する方向にある。
FFG、十八銀行のケースがこの動きに弾みをつけたことは言うまでもない。それだけ地方社会での人口・事業所の減少が深刻に受け止められたということでもあるが、果たして、これで問題は解決するのかどうか。というのも、経営統合によっては、地域サービスのレベルが大きく棄損しかねないリスクがあるからである。
たとえば、FFGと十八銀行がこの先、いかなる統合ビジョンを具体化するかは定かではないが、あえて予想を試みると、十八銀行がFFGの傘下に収まるという経営統合である以上、十八銀行はいずれ、従来の自身の業務基準を改めて、FFGの基準に入れ替えていくことになるに違いない。
規模的な面、効率的な経営体質などをふまえると、FFGの基準のほうが厳格であるという予想ができる。さらに、FFGの株主構成をみると、外国人株主比率は30%にも達している。
さすがに有力地域銀行グループという話だが、とすれば、十八銀行はFFGの傘下に収まった瞬間に、外国人株主比率30%という新たなコーポレート・ガバナンスの世界に入っていく。
一般的に言って、外国人株主は収益力、経費率などに対して、厳しいチェックの目を光らせている。場合によっては、そのプレッシャーのなかで、十八銀行は採算性が低い県内店舗の統廃合を迫られかねない。
つまり、独禁法の例外措置を盛り込んだ新法で政府が目指す地域サービスの存続は実現できても、存続するだけでサービスの水準、質は低下する可能性があるわけである。
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経営統合が地域経済の疲弊に拍車をかけることも >
更新:11月22日 00:05