2019年03月25日 公開
2022年02月28日 更新
さて、安倍政権の対露外交は具体的にどこが間違っているのか。最も大きな間違いは、先述した「領土放棄の容認」である。安倍政権は明らかに「2島返還で平和条約」という解決を目指している。
しかし平和条約を締結すれば、それは事実上、国後島と択捉島のロシア帰属を認めることになる。
だから平和条約締結後、国後島と択捉島の返還を要求できなくなる。要求したとしても、「平和条約の時点で領土問題は解決した」という反論がくる。だから、いわゆる「2島先行返還論」はありえないのだ。
ロシアからだけではなく、第三国から見ても、平和条約締結後の日本の領土返還要求は正当に映らない。だから絶対に、全島全域返還の前に平和条約を締結してはいけないのだ。
ちなみになぜ、筆者は「安倍政権が2島返還を容認している」と断言できるのか。それにはいくつかの理由がある。
1つ目は、先述したメディア戦略である。安倍総理は明らかにプーチンとの個人的な友情をアピールし、日本人にロシアやプーチンに対して好印象を持ってもらいたがっている。
2つ目は、日ソ共同宣言への言及である。日ソ共同宣言は当時、違法にソ連に抑留されていた日本人の帰還のためのやむをえない措置だったかもしれないが、日本人の帰還終了後にこれを即、破棄するべきであった。その内容は大きく日本の国益を損なっているからである。
そして3つ目は、安倍総理は自分の在任中に領土問題を解決し、平和条約を締結する、と言っている。
しかし、安倍晋三総理大臣の在任中に北方領土全島を取り返すことは不可能である。だから「自分の在任中に解決する」と言っている時点で、安倍総理が「2島返還で平和条約」を容認しているのは明らかなのである。
また「自分の在任中に解決する」という発言は、安倍政権の対露外交のもう1つの大きな欠陥である。
自分の在任中に解決する、というのは、問題解決に期限を設けることを意味している。
つまり、2021年9月までに北方領土問題を解決しなければならないということだ。それは交渉において、自分の立場を自ら不利にする行為である。
総理の発言のため、日本側には期限が迫っているという焦りが生じる。しかし、ロシアには一切何の期限もなく、時間が無限にある。だからロシアは、日本側に期限が迫るときまで待てばいいだけである。
他方、期限までに問題を解決しなければならない日本は、期限が近付いた頃に仕方なく譲歩せざるをえない。そして、ロシアは待つだけで自国に有利な結果での解決を獲得する。
以上のことから、安倍総理の発言は大きな誤りであり、現在の対露外交は日本の立場を不利にする行為であるので、即刻改めるべきである。
領土問題を始めとする難しい外交的問題において、期限を設けてはいけない。必要なだけ時間をかけて、必要な場合は次の代に解決を先送りすることを覚悟するべきだ。解決を焦ることは、自分の手で自らの首を絞めることである。
※本稿は、グレンコ・アンドリー著『プーチン幻想』(PHP新書)より一部抜粋、編集したものです。
更新:11月24日 00:05