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進まない非核化の裏で行なわれる、北朝鮮の犯罪行為

2019年03月18日 公開
2019年03月18日 更新

古川勝久(国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員)

中東・アフリカの紛争地域に食い込む北朝鮮

中東・アフリカの紛争地域は、北朝鮮にとって重要な武器供給先だ。イエメン、スーダン、リビアなど、数々の紛争地域において、安価な北朝鮮製の兵器や軍事技術支援に対する需要は根強い。

そのような北朝鮮の軍事ビジネスを支える中心人物の一人が、シリア人の武器密輸業者のフセイン・アル・アリである。彼は、北朝鮮と紛争地域を結ぶ仲介業者だ。北朝鮮は彼と結託して、武器市場を開拓してきた。

激しい内戦が続くイエメンは、北朝鮮にとって重要な市場である。国連専門家パネルはイエメンと北朝鮮とのつながりについて詳細に報告している。

2016年7月13日付で、イエメンの反政府武装勢力のフーシ派の軍事指導者は、北朝鮮宛てに書簡を送っている。フーシ派が、自らの友好国であるシリアの首都ダマスカス市に、北朝鮮の代表団を軍事協力について協議するために招待するとの内容である。

書簡の宛先は、北朝鮮の軍事装備部と、同国の大手武器密輸業者「朝鮮鉱業開発貿易会社」の子会社である「土星貿易会社」だ。いずれの会社も国連制裁対象団体であり、これらの団体とのいかなる取引も禁止されている。書簡には次のように記載されている。

「技術移転とそのほか、相互の関心事項について協議したい」

北朝鮮は招待に応じて、フーシ派の駐シリア大使がダマスカス市内で北朝鮮側と軍事協力協定について協議したという。

北朝鮮はフーシ派に対して、カラシニコフ銃、PKC機関銃、携行型対戦車ロケット、対戦車ミサイル、携帯式地対空ミサイル、戦車、防空システム、弾道ミサイルなど、さまざまな武器の供与について協議したとされる。

このとき、北朝鮮側を代表していたのが、アル・アリである。彼と北朝鮮との密な関係がうかがわれる。

国連専門家パネルによると、北朝鮮はアル・アリを通してスーダンとも、対戦車ミサイルや携行型地対空ミサイルの売却について協議していた。

またアル・アリは、コンゴ民主共和国でも、同国の金採掘場への投資事業に対する北朝鮮の参加を仲介していた。首都キンシャサで金採掘事業会社を経営するレバノン人が、北朝鮮側に対して、1万6000エーカーの敷地における金採掘事業への投資を持ち掛けたのである。

その際もアル・アリが両者間で仲介役を務めた。北朝鮮側は、国連制裁対象団体の北朝鮮大手武器密輸会社「青松連合」の代表者だった。この団体ともいかなる取引も行なってはならない。明らかな国連制裁違反である。

国連専門家パネルの報告書によれば、北朝鮮はほかのシリアの武器商人とも結託して、武器密輸ビジネスを展開しているという。シリアと北朝鮮との協力関係は太く、断ち切るのは至難の業だ。

最近の報道によると、北朝鮮はシリアに対してスカッド型短距離弾道ミサイルの施設を地下深くの防空シェルターに移設するよう提案しているという。

北朝鮮の「顧客」であるスーダン、イエメン、コンゴ民主共和国は、いずれも北朝鮮と同様に国連制裁対象に指定された紛争国だ。これらの国々との武器取引は禁止されている。

もし将来、北朝鮮に対する国連制裁が大幅に緩和または解除されても、北朝鮮が他の国連制裁対象国との軍事取引を続けていれば、結局、北朝鮮は国連制裁違反を問われることとなり、なにがしかの制裁を科されるだろう。

前述の事例は、中東・アフリカ地域における北朝鮮の非合法活動の一部にすぎない。北朝鮮は紛争地域にしっかりと食い込んでおり、紛争地域における役割は依然、大きい。

北朝鮮と紛争地域との武器取引は、おそらく米朝首脳会談では言及もされないだろう。

しかし北朝鮮が、紛争地域への武器密輸という国家主導型の犯罪をやめないかぎり、対北朝鮮制裁の緩和や米国との関係改善には限界が出てくるものと思われる。

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