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“哲学界のスター”が語る、日本的仏教とドイツ観念論の決定的違い

2019年03月13日 公開
2024年12月16日 更新

マルクス・ガブリエル(ドイツ・ボン大学教授)/取材・構成:大野和基(国際ジャーナリスト)

マルクス・ガブリエル

弱冠29歳で名門ドイツ・ボン大学の哲学科教授に就任したマルクス・ガブリエル氏。彼は、日本で重要な役割を担った仏教とドイツ観念論を比較し、両国における価値観の決定的違いを指摘する。世界最高の知性が語る、哲学の深淵とは。

※本稿は『Voice』2019年4月号、マルクス・ガブリエル氏の「民主主義を哲学する」を一部抜粋、編集したものです。

 

日本の規律の裏にはカオスが隠れている

――(大野)私が、コーネル大学やニューヨーク医科大学で学んだのは化学や基礎医学ですが、せっかくの機会ですので、“哲学界のスター”といわれるあなたと哲学の話をしたいと思います。

日常会話で日本語は主語を使わないことからもわかるように、日本人は環境と人間が一体となった「一元論」の世界で生きているといえる。これはドイツ人の世界認識の方法とは異なるでしょうね。

【ガブリエル】 私の日本社会に対する最近の印象を単刀直入にいうと、お互いに自己主張をしないで、ぶつからないようにする洗練された社会です。そのやりとりは「メンタル空手」といってもいいでしょう。

アウトサイダーとしてこれを理解するのは無理ですが、それが存在していることはわかります。日本語には「メンタル空手」を表す複雑な語彙がありますが、上下関係によって変化しますね。

それは明らかにドイツのモデルではありません。ドイツの場合は「私対残りの現実(me against the rest of reality)」です。「私はエゴイズムの中心であり、彼女もエゴイズムの中心である」というように、完全に自律しています。

ドイツの哲学者、ヨハン・ゴットリープ・フィヒテはイマヌエル・カントの哲学に大きく影響を受けた人です。フィヒテの人間の営みに関する哲学は、現代のドイツの政治哲学と制度上の現実に一致していると思います。

一方、日本の歴史にとって重要なのは仏教です。仏教の社会的現実が日本人にエゴを減らせ、と命じています。実際、横浜を含めると3700万人が住んでいる大都市の秩序をどうやって維持し、運営するのでしょうか。

エゴを減らさないとできません。ドイツの最大の都市はベルリンですが、3700万人もいれば、市民戦争が起きるでしょう。

ドイツの国内は混乱しています。ドイツを統一された1つの国と考えてはいけません。1989年に東西ドイツが統一されましたが、あまりに人工的です。ドイツのある州から別の州に行くと、まったく違う国のようです。

――これは半ば「ジョーク」ですが、日本人は欧州人をこうみています。フランス人は少し遅れてくる。ドイツ人は時間どおりに来る。スペイン人は、今日も来ないかもしれません。しかし、そこで30分は待ってみるのが日本人です。

【ガブリエル】 それは非常に当たっていると思います。日本は規律正しい国です。でも、その裏にはカオスが隠れている。

日本は戦後いろいろな点で静かになった国ですが、私が編集者とお金について交渉しているとき、戦争のような気質が見られます。

日本社会にはバイオレンスも散見されます。それは抑圧されたバイオレンスです。日本に行くと、私の友人はそういう隠された裏の面を見せてくれます。

――カントは毎朝、時間どおりに散歩したといいますが、ドイツ人が規則に対して厳格なのは、ドイツ観念論の影響なのでしょうね。

【ガブリエル】 ドイツの観念論は、思考の絶対的パワーを信じることです。カントは有名な観念論者でした。彼はドイツ観念論の源です。

カントは思考のために完璧な1日を過ごしました。儀式をもったのです。毎日がほとんど同じです。ランチやディナーのために人を招待したときは例外ですが、会話のテーマによって飲み物も選択していました。

彼が行なうすべてのことは哲学について解明することでした。他のことはどうでもよかったのです。

肉体は、Critique of Pure Reason(『純粋理性批判』)のための手段であった。それが真のドイツの観念論です。イデア(世界の個物の原型。純粋な理性的思考によって認識できるとされる)の永遠性を信じることです。

 

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