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日産ゴーン氏解任で変わる次世代自動車産業

2019年01月15日 公開

田中道昭(立教大学ビジネススクール教授)

田中道昭

カルロス・ゴーン日産前会長を巡る騒動が続いている。ゴーン氏解任は、次世代自動車産業にいかなる影響を及ぼすのか。大学教授、上場企業取締役、コンサルタントという3つの顔をもつ筆者が独自の観点から分析する。

 ※本稿は『Voice』2019年2月号、田中道昭氏の「ゴーン解任で変わる自動車産業」を一部抜粋、編集したものです。

 

強烈な危機感と自尊心とのギャップ

「勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかの戦い」と強烈な危機感で社内外を鼓舞してきたトヨタ自動車の豊田章男社長。

「われわれはEV(電気自動車)分野のパイオニアであり、リーダーだ」と2018年1月のパリモーターショーでも語り、つねに強烈な自尊心を示してきた日産自動車のカルロス・ゴーン前会長。

強烈な危機感と自尊心との大きなギャップは、その後、「トヨタとソフトバンクとの“世紀の提携”」と「不正取引による逮捕と会長職からの解任」と大きく明暗を分けることとなった。

日産はゴーン前会長の強力なリーダーシップのもと、いち早くEVシフトに舵を切っていたが、トヨタもEVを含めたCASE(つながる・自動化・サービス&シェアリング・電動化、詳細は後述)全般への取り組みを本格化、2020年に向けての主要自動車メーカー各社によるEV量産化への戦いが本格的に始まったばかりというタイミングでもあった。

ゴーン前会長というカリスマ経営者を解任したなかで、日産の今後を占う上で最も重要なポイントは、次のリーダーとしての経営者とその資質だろう。

本稿執筆時点では、今後開催が予想される臨時取締役会や臨時株主総会において、誰がトップリーダーとして指名されるかは定かではない。

しかし、次の経営者に求められる資質がきわめて高度なものとなることはいうまでもないところだ。

まず、「全産業の秩序を激変させる戦い」ともなっている次世代自動車産業での異業種戦争の攻防のなかで、次の経営者には、社内外に大胆なビジョンを指し示すトップダウンリーダーシップが求められる。

その一方で、ルノーからの出資比率が43・4%という資本構成のなかで、次の経営者にはルノー、そしてその15%株主としてのフランス政府との交渉力や調整力をもつことも同時に求められる。

資本の論理のなかでは、「プリンシパル(本人)」であるルノーに対して、日産の経営者という「エージェント(代理人)」としての立場はきわめて無力なものであり、調整力と表現したほうが的確だ。

そして、とくに重要なのは、次の経営者には、CASEという新たなゲームのなかで、異業種の競合としてのメガテック企業をも圧倒するような大胆なビジョンを示し、それを実際に実行していくことが求められることである。

“功罪”の“罪”は当然に問われるべきゴーン前会長ではある一方、同人が大胆なビジョンを示し、人や組織を動かすことに長けていたことは見逃せない点だ。

初代リーフの発表時に「2016年度までに日産とルノーとの合計で150万台のEVを販売する」という大胆なビジョンを示したゴーン前会長(当時は日産社長)。

結果的には35万台にとどまったものの、「2社で150万台」という量産化実現目標からの逆算思考なしには、現在の日産のEVでの地位はなかっただろう。

自動車会社のイノベーション実現には、膨大な資金をR&D(研究開発)から設備投資に至るまでかける必要がある。一定量以上の数量目標を立て、そこから逆算した計画を実現することが量産化・収益化の唯一の手段だ。

現在の日産が「EVのリーダー」を自負し、7年間のPDCA(計画、実行、評価、改善)を踏まえて新型リーフを市場投入できるのも、ゴーン前会長による最初の決断があったからだろう。

そして、現在の日産に本来求められている大胆なビジョンや決断は、もはや(足元での)「EVのリーダー」ではなく、自動運転化やサービス化自体に正面から取り組んだ上での「2社で150万台」以上のものであるはずなのだ。そこにこそ、「トヨタの危機感」との大きな相違が存在しているのだ。

CASE全般での「2社で150万台」と同等以上の大胆なビジョンを掲げ、それを決断できるだけではなく、今度は高速でPDCAを回して本当に実現しなければならない立場にある日産。

日産単独の事業規模では、CASEという基準からは量産化・収益化を実現するのは困難であることも明白だ。そして、以上のことは日産ばかりではなく、すべての自動車会社の経営者に求められていることなのである。

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著者紹介

田中道昭(たなか・みちあき)

立教大学ビジネススクール教授

シカゴ大学ビジネススクールMBA。戦略論を専門として、経営を中核に政治・経済・社会・技術の戦略を分析する「戦略分析コンサルタント」でもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長などを歴任。現在、株式会社マージングポイント代表取締役社長。著書に、『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(ともにPHPビジネス新書)など。

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