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吉見俊哉 AIは「日本100年の計」を設計できない

2018年12月28日 公開
2024年12月16日 更新

吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)

吉見俊哉 AIは「日本100年の計」を設計できない

デジタルテクノロジーの時代といわれる今般、AIは人間を凌駕するのか。AIに負けない人間とはどんな人物なのか。東京大学大学院情報学環の吉見俊哉教授が説く。
※本稿は『Voice』2019年1月号、吉見俊哉氏の「文理の二刀流が未来をつくる」を一部抜粋、編集したものです。

 

AIは未来を予測できるか

いわゆるビッグデータが揃い、AIが現在よりもさらに高度化していけば、数日後、数週間後の未来についてなら、AIは人間よりも優れたレベルで予測できるようになるだろう。

私たちが先入観や不十分な情報をもとに判断している近未来予測を「補正するツール」としては、AIがたいへん優れた力を発揮するのは間違いない。

すでにいくつかの業務において、AIは人間の能力を凌駕しつつある。「天気予報」「選挙結果」「需要予測」といった分野において、天気予報士、マーケッターなどの「プロ」を凌ぐスピードと詳細さで、AIは複雑かつ多元的なデータ処理を行なうだろう。

交通システムや病気診断などの分野でも、人間よりも優れた近未来の傾向の予測ができるようになっていく可能性が高い。

しかし、AIが大量のデータから未来を予測できるのは、本来は質的に異なる多様な事象が同一の方式でデータ化され、「連続的な空間」に埋め込まれるからだ。

卑近な例だが、アマゾンは私が書いた本を、しばしば「著者である私」に推薦してくる。私は自分の本をアマゾンで買ったことはない。しかし、アマゾンのAIは私の購買傾向から、連続的な空間に空白部分があるのを発見し、私に「私が書いた本」を推薦してくるわけだ。

トランプ政権が誕生した2016年の米大統領選挙で問題になった「フィルターバブル」も、これと関係がある。

インターネットのサイトのアルゴリズムは、そこにアクセスした人の閲覧履歴からその人の傾向を分析し、当人が欲しているであろう情報を提供する。

だからその人が、ネット上でやりとりをすればするほど、本人が望むような情報しかだんだん得られなくなっていく。

これをマクロに見ると、同じような趣向をもった人たちが、ネットワーク上に次々と集められていき、ある種の「島」がたくさんできる状況といえる。

その人たちは連続的な傾向をもっているから、選挙行動でも一方向に収斂する可能性が高い。こういう事が起これば、この同じ「島」のなかでは、こういう刺激にはこう反応するに違いないという予測がかなり可能になってくる。

データ空間として連続的な「島」が多数生まれ、それら全体の群島もより緩やかな連続的なデータ空間に収まるのであれば、すべてAIの手の内で変化が起きることになる。

そして、もしもすべての歴史が連続的に変化するのであれば、なるほどAIは未来を予測できるだろう。

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