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篠田英朗 「元徴用工」判決で浮き彫りになった「憲法優位説」の危険

2018年12月26日 公開
2023年02月22日 更新

篠田英朗(東京外国語大学教授)

中国の「歴史問題」参入を妨げ

最後に、韓国大法院判決の東アジアの安全保障環境への影響について触れてみたい。

朝鮮半島では北朝鮮の危機が恒常化しており、日米韓が中心になり、中ロを巻き込んで包囲網を形成することが重要だという点に異論はないだろう。

実際、その包囲網は、2018年6月の米朝首脳会談につながる成果を生み出した。しかし首脳会談後、包囲網は緩んでいる。

他方、北朝鮮の行動にも抑制が見られるので、ある種の小康状態に入っているということだろう。

こうした状況で、すでに韓国の親和的な北朝鮮政策はいっそう明らかになっている。

今回の大法院判決もその意味では、大きな影響を与えないだろう。日米韓が基軸になった包囲網は、実態として、すでに弛緩しているのだから。

むしろ日本にとって重要なのは、中国の動向ではないか。

北朝鮮問題にしても、超大国としての中国の存在をどう計算していくかが、大きな構造的な問題となっている。韓国が、歴史問題などで中国と同一路線を取ることによって、自国の外交的裁量を確保しようとするのは既定路線だ。

日本は、今回の韓国大法院判決が「歴史問題」にならないように、徹底して国際法の議論に傾注し、国際法と韓国国内法の調整の問題として、冷静かつ知的な態度を貫かなければならない。

感情的になり、「歴史問題」化させ、中国の参入を促すようなことがあれば、それは日本外交にとって大きな敗北を意味することになるだろう。

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