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ドイツ「インダストリー4.0」の衝撃、日本政府もイニシャチブを発揮せよ

2018年11月20日 公開
2018年11月20日 更新

熊谷徹(在独ジャーナリスト)

「インダストリー4.0は脅威でありチャンス」

政府がIoT推進の先頭に立つもう1つの理由は、デジタル化が雇用に及ぼす影響が甚大だからだ。ドイツ政府は職業訓練や学校教育を大幅に変えることにより、デジタル化の波によって取り残される市民の数を抑えることをめざしている。

ドルトムント大学のハルトムート・ヒルシュ・クラインゼン教授は「ドイツの就業者のうち15%から20%については、再教育を行なってもデジタル化に適応することが難しい。そうした人びとに手を差し伸べることも重要だ」と述べている。

PI4は去年3月に、IoT時代の雇用と職業教育に関する提言書を発表し、政府に対して労働や教育をIoTの時代に合わせて変革するための構想をつくるように要請した。

またこの提言書は、インダストリー4.0の実践のために必要な社内研修をすでに実施している企業の実例も数多く紹介している。その理由は、中小企業に対して、IoTの時代には職業訓練が現在以上に重要になるということを知らせるためだ。

たとえばジーメンスやダイムラーは、すでに社内の研修制度のカリキュラムに、IoT関連技術の習得を組み込んでいる。この提言書は、いわば中小企業が研修制度を改革するための手引書でもある。

政府がPI4の中に労組を参加させていることも、デジタル化を企業経営者だけに任せるのではなく、労働者の声をも反映させることを重視しているからだ。

IGメタルの幹部は「インダストリー4.0は労働者にとって脅威でもありチャンスでもある。インダストリー4.0を拒絶するのではなく、プロジェクトに参加することによって、労働者が不利な立場に追い込まれることを防ぐ」と語っている。

さらに学校教育のなかでも、プログラミングなどIT関連のスキルに関する授業を増やして、IoT時代に必要とされる人材の育成が重要になる。これも政府が主導権を握らなくては実現できない。

第2次世界大戦後のドイツは自由放任主義に基づく米国、英国とは異なり、「社会的市場経済(Soziale Marktwirtschaft)」の原則を取っている。この原則の下では、企業は政府がつくった法律の枠組みの中で競争する。

競争に負けた「敗者」には政府が社会保障制度によって救済の手を差し伸べる。IoTに関する国のアプローチにも、「社会的市場経済」の原則が反映している。

ドイツ政府は、市民、中小企業、組合の協力が得られなければ、デジタル化が成功しないことを理解している。

デジタル化に取り残される企業や市民を減らすべく、政府が努力を始めているのは、日本との大きな違いである。その意味で、IoT普及が政府主導で行なわれていることには、重要な意味がある。

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