2018年11月16日 公開
2024年12月16日 更新
インダストリー4.0に関する技術導入をめぐり、大企業と中小企業の間で格差が開きつつある(写真:筆者)
ドイツは製造業のデジタル化計画「インダストリー4.0」を進めている。日本でもIoTに向けた動きが見られるが、ともに製造大国である日本とドイツの違いはどこにあるのか。ドイツ在住のジャーナリスト・熊谷徹氏によるルポルタージュ。
ドイツは2011年に政府主導で製造業のデジタル化計画インダストリー4.0をスタートさせたIoT(モノのインターネット)先駆国だ。日本でも2015年以来、政府、企業のIoTへの積極的な取り組みが目立ち始めた。
だが、日本とドイツのIoTに関する政策のあいだに大きな違いがあることは、わが国ではほとんど知られていない。
日独間のIoTへの取り組み方がもっとも大きく異なる点は、日本のIoTが主に大手企業による民間主導で始まったのに対し、ドイツのインダストリー4.0は政府によるトップダウンで始まったという事実だ。
2011年4月1日、ドイツ政府のテクノロジー諮問機関「ドイツ工学アカデミー(acatech)」のヘンニヒ・カガーマン会長(当時)、連邦教育研究省で「基幹テクノロジー・技術革新部門」を率いるヴォルフ・ディーター・ルーカス教授、ドイツ人工知能研究センターを率いるザールラント大学のヴォルフガング・ヴァルスター教授の3人が、インダストリー4.0構想を世界へ向けて発表した。
カガーマンらによると、インダストリー4.0の中核であるスマート工場では、工作機械と部品、製品が相互に交信することによって、生産・ロジスティックスに関する効率性が格段に向上する。
その理由は、生産ラインを流れる部品が工作機械に対して、どのように加工してほしいかを無線タグによって伝えることができるからだ。
顧客の希望に応じたカスタム・メイド(個別生産)には通常多大な費用と時間がかかるが、スマート工場ではこのコストを下げることができる。一つの生産ラインで多くの種類の製品を組み立てることが可能になる。
だが生産効率の改善は、ドイツのデジタル化計画の序章にすぎない。むしろ重要なのは、acatechが2015年3月に発表した「スマート・サービス」計画である。
産業の自動化やロボットの導入によって、高い生産効率を実現している日本のメーカーのあいだでは、「ドイツのインダストリー4.0には新しい点はない」という声がいまだに強いが、その理由は日本のメディアが「スマート・サービス」についてほとんど報道していないからだ。
acatechによると、スマート工場でつくられた製品はインターネットに接続されて顧客に販売されたあとも、作動状況や使われている場所についての情報をリアルタイムで本社に送ってくる。
ドイツ本社は製品から送られてくるビッグ・データを分析することによって、積極的に新しい製品やサービスを売り込むことができる。
更新:12月22日 00:05