2018年07月09日 公開
米朝首脳会談の一つの意義が、私は中朝関係の変質、あるいは建前で隠されていた中朝関係の本質が暴露されたことにあるのではないか、と思う。
6月20日付『産経新聞』で矢板明夫氏は、中国は北朝鮮の〝属国〟化に成功した、と書いたが、この北朝鮮のヘタレぶりはそういわれても仕方がない。
もともと中朝関係に信頼などなかったといえばそれまでだが、建前では朝鮮戦争以来、「血で固めた友誼」に結ばれた同盟関係だった。北朝鮮の指導者たちが、中国の朝鮮戦争における犠牲や支援に深く感謝しているかというと、日清戦争以前の長い中国支配に対する恨みのほうがいまも勝っているといわれている。
しかも中国の北朝鮮への支援はあくまで自国の利益に必要な部分であり、経済支援も「生かさぬように殺さぬように」のレベルでしか行なわれず、中国国内の学者たちは「北朝鮮屏風論」(北朝鮮が緩衝地帯として米韓の脅威から中国を守る)という、失礼な言い草で北朝鮮の利用価値を論じていた。習近平は、米中首脳会談では半島が中国に属するものだと米国に説明していた。
北朝鮮が金正日の時代から本音では中国依存・中国支配からの脱却を願っており、核問題について米国との直接対話を望んでいたのは、米国と関係を深め、相対的に対中依存を薄めたいという狙いがある、という説は、それなりに説得力があるのだ。
そういう疑心暗鬼を抱える中朝の関係性が、トランプによってあぶり出された。お互いもう信頼関係などないことはわかっているが、対米戦略上のコミュニケーションが必要だから手を結ぼう、という中国の言い分に、北朝鮮も同意している。
だが、いまなお北朝鮮は中国を恐れ、習近平は金正恩を疑っているだろう。
たしかに、米韓合同軍事演習中止を発表したことも在韓米軍の撤退に触れたことも、中国にとっては利益だ。
中国にとっての半島の脅威は、北朝鮮の核よりも在韓米軍のプレゼンスであり、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)のほうである。その意味では、「中国の独り勝ち」という説も成り立つ。
だが、ある日突然米国と北朝鮮が平和協定を結び、米国寄りの北朝鮮が誕生する可能性はゼロだろうか。中国の体制内学者に聞けば、まずありえない、と答えるだろうが、在韓米軍が撤退するころ、半島統一が実現しつつあるとすれば、その統一朝鮮が赤いのか青いのかは、誰にもわかるまい。
(本稿は『Voice』2018年8月号、福島香織氏の「中朝『血の友誼』という幻想」を一部抜粋、編集したものです)
更新:11月10日 00:05