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猪瀬直樹 加熱式たばこで何が悪い

2018年05月24日 公開
2022年10月13日 更新

猪瀬直樹(作家/元東京都知事)

順法意識の高い日本人を規制で縛る危険性

 ――「通説の誤り」はほかにもあるのでしょうか。  

猪瀬 たとえば「欧米では屋内全面禁煙がすでに実施されており、日本は世界から取り残されている」というのも真っ赤な嘘。たしかに欧米ではあらゆる店舗や施設が屋内全面禁煙になっているけれども、その代わり屋外でたばこが吸える。だから皆、外で吸っているだけです。日本のように屋外も屋内も全面禁煙にする、という話ではない。

たばこを吸うマナーにしても、海外より日本のほうがはるかにまし。ニューヨークやパリへ行くと、道端はたばこの吸い殻だらけです。にもかかわらず日本だけが、住宅地の路上にまで歩行禁煙や罰金を告知するマークが張られている。街の美観を損なう異常な光景です。

僕がよく通る道にもなぜか近距離に2つも同じマークがあって、喫煙者の自分が狙い打ちされているのか、とさえ感じてしまう(笑)。なにしろ日本では、路上で見知らぬ他人を捕まえて「ここで吸っちゃいけませんよ!」と注意する人がいるぐらいですから。

――まさに監視社会。

猪瀬 僕がいちばん危険だと思うのは、日本人のように世界で最もルールやマナーを守る従順な国民に対して、さらに屋上屋を重ねるように罰則を科し、規制を加えること。ご承知のように、日本人は極端なほど順法意識が強い国民です。

サッカーの観戦後やハロウィンのイベント終了後、若者たちがゴミを片付けている光景を見ると、はっきりいって驚くよね。携帯灰皿を使っているのも日本の喫煙者ぐらい。海外の人は日本人ほど律儀じゃないから、表向きは法律の重要性を訴えても、自分たちの生活に関わるところではこっそり抜け道をつくり、ルールを破っている。

順法意識の高い日本人に対し、ましてやたばこのように個人の趣味に関わる領域に、国家が法の強制を強めていくと、人びとの不満が暴発することになりかねない。「禁止の怖さ」というものに注意しないと、いずれ途方もないしっぺ返しを食らう羽目になります。

受動喫煙に関してはイノベーションの価値を素直に認め、新しい時代の変化や概念に合った議論をしないと、まったく無意味な論争をしているだけ、ということになってしまう。正しい現状認識を欠いたまま旧態依然とした批判を続けているうちは、この国の成熟や進歩はないと思いますね。

※本記事は、『Voice』2018年6月号、猪瀬直樹氏の「加熱式たばこで何が悪い」を一部抜粋、編集したものです

著者紹介

猪瀬直樹(いのせ・なおき)

作家/東京都副知事

作家。1946年、長野県生まれ。1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』以降、特殊法人等の廃止・民営化に取り組む。小泉内閣で道路関係四公団民営化推進委員会委員、地方分権推進委員会委員等を歴任。2007年より東京都副知事。近著に、『言葉の力』(中公新書)がある。

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